SRW 第二話 メタルギア強奪 Bパート

延々と荒野が続く火星の大地に、ぽっかりと穴が開いている。
火星の地下で時おり大きなエネルギーを放ち、干渉した人間をボソンジャンプさせる機能を持つ遺跡。
その発掘場だった。
数年ほど前まで、この遺跡と月で見つかった先史文明のものらしき人型兵器とディスク、そして木星で発見された巨大エネルギーを秘めたクリスタルをめぐって太陽系すべてを巻き込んだ争いが行われていた。
それらの争いはキャスバル連盟評議会議長の下、円満に収められたはずだったが、水面下に多くの争いの種をまいた。
その種子はここよりしばらく離れた場所で、確実に芽を出そうとしていた。

火星遺跡より数十キロ離れた位置に建設された遺跡研究所の資材施設。
無音の宇宙空間のように閑静なその場所を、たたき起こすように轟音が響いていた。
格納庫のシャッターを破壊し、スネークの乗るメタルギアが脱出したのだ。
生物の頭部のような車体に、大型のブースターを搭載した二つの足、左側面にセンサー類を搭載した大型レドームと全身を覆う大きなシールド。右側面には大型の電磁レールキャノン、機体後尾に十六連装ミサイルモジュールを装備した、二足歩行戦車
コードネーム、サイサリス。
メタルギア・サイサリスである。
「ちょ、狭いぞ! どこなんだここは!」
「騒ぐな、舌をかむぞ」
シートの後部に押しやられ、体を丸めているアキトをたしなめながらスネークは操縦システムと計器類をチェックしている。
「オタコン! 奪取に成功した」
「待ってたよスネーク」
「オタ……? 誰かいるのか!?」
体内通信のためアキトにはオタコンの声は聞こえない。対照的にオタコンはアキトの声を傍受していた。
「スネーク、今の声は?」
「ちょっとしたお荷物だ」
「だれが荷物だ!」
「事情は後で説明する。それより脱出ルートを教えてくれ」
「……あ? ああ、わかったよ」
通信機の向こうからキーボードを叩く音が聞こえ、メタルギアのレーダーモニターに位置データが送信される。
「スネーク、脱出ポイントはそこだ。そこについたら連絡を送ってくれ」
「わかった。だが、やすやすと行かせてはくれないようだ」
脱出ポイントと同時にレーダーに表示された熱源反応を見て、スネークはつぶやく。
「坊主、戦闘が始まるぞ。死にたくなかったら、無駄口は叩くな」
「坊主じゃない、アキトだ!」
アキトはスネークに噛み付くように言い返すと、身を乗り出す。
「オ、オレに何かできることはないか?」
「ない! 大人しくしてろ」
戦闘と聞いて意気込むアキトを冷たく突き放し、モニターで敵機を確認する。
脱出してきた格納庫から、サイサリスを追いかけるように二体のMMGが出撃してきた。
緑のカラーリングに小柄ながらも厚い装甲を持つ機体。
月で発見された、ディスクに電気負荷を与えて再生された人型兵器の機構を応用した、新機軸のMMG。
BOXリー。
短い腕にマシンガンを装備しただけの、火力的には貧弱な機体だが、研究施設の警備に当たる程度ならばちょうどいい。
スネークは一機のリーに方向を向けながら武装を確認し直す。
試運転段階なのでレールガンとミサイルモジュールには模擬弾しか装填されていない。
まともな武装はコックピット両脇の機関銃と、股間部のレーザーブレードだけのようだ。
相手がマシンガンをこちらに向ける。
スネークは照準をBOXリーに合わせると、機関銃の引き金を引いた。
轟音。
「うわっ!」
突然の銃声にアキトが驚きの声を上げる。
放たれた銃弾はBOXリーのマシンガンを叩き落し、頭部を破壊し、胴体部に重大な損傷を与えた。
まず一体、戦闘不能
もう一体はその重量と機動性に任せ、体当たりを仕掛けてくる。
サイサリスは向きを変えると、懐にもぐりこんだBOXリーにレーザーブレードの洗礼を浴びせる。
袈裟懸けに切り裂かれたBOXリーはサイサリスの足元にひれ伏し、機能を停止した。
同時に、計器が新たな敵機の出現を伝える。
他の格納庫から新たに五機のBOXリーが出撃してきた。
それに混じって、もう一機別の機体が現れる。
生物的なフォルムに、二本の足。両腕は翼のように見える。そして頭部は爬虫類を思わせ、赤く輝く単眼をサイサリスのほうに向けた。
人型を無視した動物的な機体。人型を基本とするMMGではない。
あれもまたメタルギアである。
サイサリスが試作二号機ならば、あれは試作一号機。
海上、海中戦、もちろん陸上戦も想定した量産型。
コードネーム、レイ。
メタルギア・レイである。
「こちら雷電。強奪された二号機を捕獲する」
レイのコックピット。金髪に鋭い目をした男、雷電
彼はこの基地で開発されるメタルギアシリーズのテストパイロットを務めていた。
「スネーク、奴らに義理を立てなければいけないからな。悪いが楽には逃がしてやれん」
雷電は誰に聞かせるでもなくつぶやく。
彼こそ、メタトロンに雇われたアウターヘブンが送り込んだスパイだった。
レイが咆哮を上げる。
二本の足で跳躍して、サイサリスに上空から迫る。
「くっ!」
バーニアを噴出させ、レイの体当たりをかわすサイサリス。
そのまま移動を開始し、脱出ポイントを目指す。
その行く手を一機のBOXリーがふさいだ。
「うおおおおおお!」
サイサリスは片足を持ち上げ、BOXリーを頭から踏みつける。同時に爪先の姿勢固定用スパイクを伸ばし、BOXリーの胴体を貫いた。
そしてBOXリーを踏み台に、大きく跳躍する。
「うあっ!」
衝撃にアキトがバランスを崩して転倒する。
「ちょ、いったい何がどうなってるんだよ!」
目の見えないアキトは混乱して、スネークを問い詰める。
「騒ぐなと言ったはずだぞ」
そんなアキトを冷たく突き放しながら、計器が伝える新たな敵影の反応に、スネークは小さく舌打ちした。
脱出ポイントへ向かうサイサリスの側面から、巨大な反応――おそらくは戦艦サイズ――が迫っている。
早乙女研究所から急行したアルビオンだった。
「こちらは太陽系連盟軍、火星付近治安維持部隊、マハ隊である。試作機に乗るものに告ぐ! これ以上の抵抗は無意味である。すぐさま投降し、その機体から下りろ!」
アルビオンの艦長からサイサリスに向けて降伏勧告が行われる。しかし、それでとまるつもりはスネークには無い。
「ならば仕方ない、MMG部隊、出撃と同時に目標に攻撃開始!」
出撃命令を受けてアフランシのザクと部下のMMG三体、そして隼人の乗るゲッター1が出撃する。
「フン、俺は火星遺跡の重要な研究材料とやらが奪われたと聞いていたが……」
サイサリスを目にした隼人がつぶやく。
「あれを奪還しろって命令だが、火星遺跡の研究所って言うのは軍事施設だったのか?」
明らかな皮肉をこめて隼人が問う。
「いや、あの研究所はボソンジャンプ技術を研究していたはずだ」
その問いにアフランシは淡々と答える。
「じゃああの機体は一体何なんだろうな?」
「その質問に答える権利は貴様には無い。任務を遂行しろ!」
アルビオンから艦長が怒声を放つ。
「なんだと?」
「神くん、こらえてもらえないだろうか。我々軍人は任務に疑いを持ってはいけないのだ」
艦長に言い返そうとする隼人をアフランシがたしなめる。
「悪いが俺は軍人じゃあないぜ」
「だが、連盟軍の指揮下にある。マハと言う部隊は自分たちの邪魔になるものには、とことん冷酷な処断を下すぞ」
気に食わないとばかりに隼人は舌打ちする。
だが地上に降りると、大人しくゲッターでサイサリスに突っ込み、先陣を切った。
「ゲッタードリル!」
巨大なドリルを高速回転させ、サイサリスの足を狙う。奪還命令がある以上、必要以上の傷はつけてはならない。
「甘い!」
そのためらいが隙となったのか、サイサリスは全身を覆うようなシールドで防御する。そして高速で巨体をひねると、頑強な足でキックを返す。
「うおっ!」
大型のブースターを搭載した足から繰り出されるキックはすさまじい威力を持っていた。その攻撃をまともに受け、ゲッターは吹き飛ばされる。
「神くん!」
隼人を気遣う声をかけながら、アフランシはザクのマシンガンを放つ。
追撃を加えようとしていたサイサリスは、ザクからの砲撃を感知して身を引いた。
「大丈夫か?」
「ああ……ゲッターも俺も、この程度じゃつぶれない」
部下のMMGの援護砲撃を行う。
しかし、大型のシールドと重厚な装甲の割には高い機動性に阻まれて、致命打は与えられない。
「向こうのパイロットも技量が高い……おそらくは名のある戦士か」
「フ、ゲッターだって何百年も人類の守護者として戦ってきたんだ。名前負けはしないぜ」
そういうと隼人はゲットマシンに分離し、空中でゲッター2に変形する。
赤いカラーリングを基本とし、頭部には特徴的な二本の角。ゲッターの空中戦用の形態である。
地上活動が基本となる火星で、変形優先順度からゲッター2の名を与えられているが、もともとはゲッター1の名を冠した形態である。攻撃力では最大を誇っていた。
「ゲッタービーム!」
腹部に空いた射出口から、灼熱の光線が放たれる。サイサリスはシールドで防御するが、装甲表面が焼かれて熔かされる。
「今の攻撃は……何度も受けられんな」
そう判断したスネークはアフランシ達を無視し、脱出ポイントへの移動を優先する。
「逃がさんぞ……スネェークッ!」
その背後から雷電の乗るレイが迫っていた。
翼のような両腕の先端に搭載された機関銃で、サイサリスの背面を狙撃する。
「くうっ!」
機体後尾に被弾、背面のブースターが一基停止した。
「だが!」
サイサリスはとうとう脱出ポイントに到達していた。
「オタコン! 脱出ポイントに到着した!」
「了解! すぐに迎えに行くよスネーク」
「急いでくれ! こっちはあまりもちそうに無い」
「大丈夫、僕を信じて!」
オタコンはそう言うが、マハのMMGにゲッター2、メタルギア・レイにBOXリーの軍勢が押し迫っている。スネークは額に脂汗が流れるのを感じた。
その時――全機のレーダーに異様な物が映った。
「なんだ? 大型の機体――いや、戦艦が迫ってきている!」
それは地上を超高速で移動しながらこちらに迫ってきていた。
「近いぞ! なぜ今まで気づかなかった!?」
「わかりません! 熱探知にも引っかかりませんでした!」
アルビオンのブリッジで、艦長の怒声にオペレーターが泣き言を返す。
「僕の開発したステルス技術は、そんなものじゃ捉えられない」
誰に聞かせるでもなく、高速で接近する戦艦の中、オタコンが一人つぶやいた。
「スネーク! 跳ぶんだ!」
「わかった!」
オタコンの声に従い、サイサリスは真上に跳躍する。
同時に、高速で接近していた戦艦が、自らを覆っていた偽装を解く。
それは巨大な戦車に見えた。
前面にドリルの型をした無限軌道。後部には各種武装を積み込んだバックパックを引きずり、その両側面にはその超高速を生み出すためのロケットエンジンが搭載されている。
アウターヘブンが誇る、高速輸送地上戦艦シャゴホッド
それがたった今さっきまでサイサリスが立っていた場所を通過する。
そして跳躍したサイサリスはシャゴホッドの甲板に着地した。
「お帰り、スネーク」
サイサリスを乗せたシャゴホッドは、速度を緩めることなく、再びステルス迷彩をまとって高速で離脱していく。
「何をしている! 奴を止めろ!」
アルビオンが主砲を向けるが、その速さから照準が定まらない。
誰一人として、シャゴホッドを止めることはできなかった。
「どうだいスネーク。僕もやるもんだろ」
「ああ、たいしたもんだ」
アフランシ達はただ呆然と、姿の見えなくなったシャゴホッドを見送るしかなかった。

第二話 end