仮面ライダーディケイド 異聞Ended to DECAID

第ニ話 ファインディング・パラダイス 前編


カブトの世界に別れを告げて、新しい世界へと移動した士たち。
しかし、転移のショックなのか、光写真館ではなく、街中に唐突に放り出されてしまった。
そこは活気ある平和な街並み、談笑し行きかう人々、普通の世界と変わらない平凡な世界に見えた。
――だが、圧倒的に何かが欠けている。
そう、遠くに見えるべきの街並み、山や平野といった地形、そして空までもが途中で裁断されたように完全な虚無となっていた。
そんな光景に普通になじんでいる一般市民たちに違和感を覚える士たち。
そこに、自動小銃を携えたホームレスのような格好をした一団が紛れ込んでくる。
彼らは滅茶苦茶に銃を乱射して、街の人々を撃ち殺しながら、まるで追い詰められたかのように突き進んでいく。
悲鳴を上げる夏海、怒声を上げて止めようとするユウスケを士が制する。撃ち殺された人々が起き上がり始めたのだ。
いや、彼らは最初から傷ついてなどいなかった。撃たれた人々、まだ標的となっていない人々は一様に表情を怒りにゆがめ――その素肌にモノトーンの文様が浮かび上がり始める。
気がついたときには、銃を乱射している一団以外は、全員が怪人――死から甦った人類の進化系、オルフェノクへと変化していた。
銃をどんなに打ち鳴らそうとも、人間の銃火器では太刀打ちが出来ない。、一対一でも圧倒的な戦力差があるにも関らず、この街の総ての人間が――いや、すでに全世界の人間がオルフェノクへと進化しているのだ。
旧人類はわずか数百人程度。敗北して死しても、その内の何割かはオルフェノクとして覚醒し、敵側に回っていくのだ。数の上でのパワーバランスを崩すには、オルフェノク側が圧倒的に有利だった戦争は、旧人類の敗北、絶滅という形でもうすぐ幕を閉じようとしている。
「ここは……パラダイスロストの世界か」
一人、また一人と周囲のオルフェノクたちに囲まれ、殺されていく旧人類達。その光景を歯噛みしながら、見つめるユウスケを「都市一つレベルの人数をいっぺんに相手にできるか?」の一言で押さえ込む士。
しかし、状況は変化する。はるか遠景に巨大な次元の壁――ディケイドたち次元移動者が世界を渡るための空間の歪み――が発生し、遠景からこちらへ向かって世界を飲み込み始めたのだ。
「侵食がまたはじまった」
オルフェノクから人間体に戻った街の人々が呟き、迫りくる次元の壁から逃げ始める。その時、街頭の大型スクリーンや、店先にディスプレイされているテレビ、その他映像受信機器にスマートブレインのロゴが映し出される。そして青いワンピースを纏った女性が現れ、感情が有るようには見えない、作られたにこやかな顔で話しはじめる。
曰く、別世界との融合がまた始まり、この世界は崩壊しようとしていること。この世界と良く似た『大元の世界』が有り、この世界はそちらに吸収されようとしていること。崩壊する前にその『大元の世界』に移動すれば自分達は助かること。『大元の世界』へと移動するための次元の壁は、侵食中にしか現れないことを、懇切丁寧に説明していた。もちろん、最初に「お忘れかもしれませんが」、と意地が悪そうに前置きした上で。
「市民のみなさ〜ん。慌てず、騒がず、落ち着いてお近くのゲートポイントから、『大元の世界』へ移動してくださ〜い」
どうやら、ここに留まり続ければ世界の崩壊に巻き込まれるらしい。そう判断した士は、「この世界はどうする!?」と文句を言う夏海とユウスケを、「俺の想像通りなら問題ない」と引っ張り、人々の流れに合わせて、スマートブレインの用意したゲートシステムへと進んでいく。
そして、士たちはゲートを抜け――また別の世界へとやってきていた。背後を振り返れば、そこには光写真館。
どうやら、本来はこちらの世界に出てくるはずが、自分達だけ吸収されかかっている別の世界に出てきてしまったようだと推測する。
光写真館の前には、道路を挟んで「創才児童園」という名前の養護施設が建っており、子供達の元気な声が聞こえてくる。
一緒のゲートをくぐってきたはずの「パラダイスロスト」の世界の住人達――数え切れないほどのオルフェノクの姿も見えず、戸惑う士たちだが、その前にギターケースを背負った一人の男が現れる。
こんなところに写真館なんてあったか?と首をひねっている男――海堂ナオヤは、しばらくうなったあとまあいいかと背を向けて養護施設のほうへと歩いていく。
ナオヤが門を開けて施設に入っていくと、子供達の一人が気付き、他の子供達の歓声と共にあっという間に囲まれていく。
「ちゅうかよ、いっぺんに来んなっての!」
悪態をつきながらも施設の遊具、ブランコに腰掛けるとギターケースからアコースティックギターを取り出してから子供達を静かにさせ、弾き始める。
曲名は――「夢のつづき」
かつて夢を追い、夢に破れた自分。そして仲間達への情念を込めて完成させた一つの曲。
「きれいな曲ですね」
門の前までやってきて、聞いていた士たち。夏海が感想を述べて、ユウスケは無言でうなずき、士も「悪くない」とあさっての方向を向きながら呟いた。
演奏が終わり、子供達の拍手と歓声が上がる。自分に向かって振られる手に、笑顔で振り替えしているナオヤが、観客の中に混じっている一組の大人の男女に目を留めた。
「いたんなら声ぐらいかけろよ」
「演奏の邪魔をしちゃわるいだろ?」
二人は養護施設で保父、保母として働いている三原シュウジ、阿部リナだった。
ナオヤはシュウジ達と会話を続けようとするが、子供達の「もう一曲」の声に押されて「わかった、わかった」と、再びギターを構えなおし――
その瞬間、次元の壁が発生して創才児童園の施設を破壊し始めた。
子供達の悲鳴が上がり、シュウジたち、ナオヤも子供達をかばいながら建物から離れた場所へと移動する。
「この世界も崩壊が!」
「いや違う、これは向こう側のゲートが開かれたんだ!」
慌てる夏海に、士は厳しい目つきを次元の扉へと向けながら冷静に分析する。
「ちゅうか、何が起こってんだよ!」
拡大が収まった次元の扉に向かって怒鳴るナオヤ。その声に答えるように、扉の向こうから次々と人が駆け出してくる。
唐突な自体にナオヤ達は驚くが――次元の扉を超えてきた人間達が次々とオルフェノクに変身し、一部は胸元に手を当て「変身」の掛け声と同時に量産型ライダー「ライオトルーパー」へと変化する様を見て事態を飲み込み始める。
ナオヤはシュウジと目を合わせ、シュウジもそれにうなずくとリナに子供達を任せる。
ナオヤはギターケースへ手を伸ばし、、シュウジは襲い掛かってくるオルフェノクの群れをすり抜けながら、崩れかかった創才児童園の建物の中へと入り込んでいく。
ナオヤがギターケースの二段底から『携帯電話』と一本の『ベルト』を取り出す。シュウジもまた、施設から出直してきたときには『携帯電話』を持ち、デジタルビデオカメラがセットされた『ベルト』を腰に巻いていた。ナオヤもベルトを腰に回すと、中折れ式の携帯電話を開き『5』『5』『5』のミッションコードを入力する。
「「変身」」
二人の声が重なり、ナオヤは携帯電話をベルトのバックルに、シュウジはベルトの右腰にセットされたデジタルビデオカメラへと装てんする。
『Compleet!』
電子音声と共にナオヤの全身を、骨格をなぞるように光のラインが包み、同様にシュウジの体も白いラインに包まれていた。
そのラインを基礎として、黒いボディと顔全体を被うような大きなカメラアイを持つライダーへと変身する。
仮面ライダーファイズ、そして仮面ライダーデルタ。
ファイズの世界を戦いぬいた三人のライダーのうちの二人。ファイズの装着者、海堂ナオヤ。デルタの装着者、三原シュウジ
つまりこの世界は、仮面ライダーファイズとして最初に語られた物語。「夢の続き」なのだ。
「なるほど、だいたいわかった。『大元の世界』とは、こういうことか」
そう言いながら、士は創才児童園の門を飛び越え、ユウスケも慌てて追っていく。
腰に装着したドライバーにカードをセットして、ディケイドへと変身する士。そしてクウガへ変身するユウスケ。
二人は圧倒的に不利な数のオルフェノクとの戦いに身を投じたファイズとデルタの加勢へと駆けつける!
「ライダー!?」
現れたディケイドたちに驚きの声を上げるファイズとデルタだが、「今気にしてる場合か」という士の一言に戦いへと集中していく。だが、次元の壁を超えて次々と、まるで無尽蔵に現れるオルフェノクとライオトルーパーたちに危機感を感じ始める。
「別の世界から、まるごとこっちに移動しようって言うんだ。まだまだ来るぞ!」
「嘘だろ!」
激をとばすディケイドだが、あまりに多すぎる数の敵に他のライダー達からの返事に諦めの色が混じっている。そんなファイズたちに呆れるディケイドだが、次元の壁を超えてくるオルフェノクたちの様子がおかしいことに気付き始める。
まるで逃げるように、必死な様子でこちらへと向かってきているのだ。中にはすでに傷を負っているオルフェノクたちもいる。まるで、何かと戦い、逃げるようにやってきたような……
その疑問はすぐに解消される。
次元の扉から逃げるように現れたオルフェノクたちを、鮮烈な赤い光が追いかけてきたからだ。
円錐状のエネルギー体に、一体のオルフェノクが貫かれる。そして次元の扉からまたしても赤い閃光が飛び出し、エネルギー体と一体化してオルフェノクの体をぶち抜いた。
クリムゾンスマッシュ。
赤い閃光でφの字をオルフェノクの体に刻み込み、後には白い灰しか残さない必殺技。
その技を使えるライダーは一人しかいない――次元の壁を越えてやってきたライダーもまた『ファイズ』だった。
ファイズが……二人!?」
その光景に全員が、驚愕に包まれる。それはオルフェノクたちも一緒だった。なぜなら、彼らはこの「ファイズ」から逃げながらこの世界へとやってきたのだったから。
「なるほど、大体わかった」
その中で士だけ、一人納得したようにうなずいていた。
「だが、まずはこいつらを片付けてからだ」
その言葉にライダー達がうなずき、デルタは腰のデジタルビデオカメラを構え、ナオヤ・ファイズは手首の時計からミッションメモリーを抜き取って、バックルのファイズフォンへと挿入し、アクセルフォームへと変化する。ディケイドもケータッチを操作してコンプリートフォームへと変身し、さらにケータッチでクウガを選択すると、ユウスケをライジングアルティメットフォームへ強化する。
次元を超えてきたファイズファイズブラスターへファイズフォンをセットしなおし、ブラスターフォームへと変化すると、ライダー全員がそれぞれの必殺技を次々と手近なオルフェノクたちに叩き込んでいき――なんとか、その場のオルフェノクたちを掃討した。
次元の壁から流れ込んでくるオルフェノクたちもいなくなり――だが、最後にひとり女性を吐き出して次元の壁は消滅した。
その女性の顔を見た「この世界のファイズ」とデルタが同時に驚愕の声を上げる。
「マリ(ちゃん)!」
叫び声を上げられた女性――園田マリもまた、ファイズが二人いるという事態に驚愕する。
とりあえず、敵もいなくなったことでライダー達全員が変身を解除したのだが――
「乾!?」
「海堂!?」
「「お前、死んだはずじゃなかったのか!?」」
「この世界のファイズ」ナオヤと、「向こうの世界のファイズ」乾タクミは、互いを指さしあいながら、同じ台詞を叫んだのだった。


時間は夜――壊れた施設の変わりに、庭にテントを張り、焚き火を囲んで座り込みながら、士が二つの世界の人間達の間を仲立ちし――その前にお前も誰なんだよというナオヤの突込みを捌きつつ――、「この世界」と「向こうの世界」の事情の交換会が始まった。
「この世界」では、オルフェノクの王との戦いの後、乾タクミはスマートブレインの人体実験の副作用で短い寿命を終え、ファイズのベルトをナオヤに託し、また園田マリも二度の強制蘇生の後遺症か、タクミの後を追うようにこの世を去っていた。
「向こうの世界」では、仮面ライダーオーガ、木場との決着をつけた後、わずかな人類を率いて戦い続けていたタクミとマリだが、敗色の濃厚さは覆せず、それでも最後まで戦い続けようという時に「この世界」との融合が始まり、こちらへと逃げるオルフェノクを追いながら移動してきたのだった。
互いの世界で自分達が死亡していること、そして似たような世界でありながらオルフェノクの短命問題有無の差にショックを受ける面々。そして、どちらの世界でも木場ユウジ、長田ユカ、そして草加マサトが死亡している事に、形にならない悔しさを感じていた。
不意の沈黙――そこに、小さな白コウモリ、キバーラがお気楽な声で乱入してくる。
うるさそうに払おうとする士だが「不審者発見しちゃったんだけど?」との一言に、立ち上がってキバーラのさす方角を睨みつける。
一斉に自分の方角に視線が向いたためか、門の影に隠れていた不審者は小さな悲鳴を上げて逃げようとするが、キバーラに行く手を遮られ、後ろからきたナオヤに首根っこを引っつかまれる。
その顔を見たナオヤ、そして追いついてきたシュウジが驚愕の声を上げる。
どこかの工事現場の作業服を着ているが、その男はラッキークローバー、スマートブレイン社の影の掃除人達の一人、琢磨イツロウだったのだ。
怯えた様子の琢磨が焚き火の輪の中に放り込まれ、今度は尋問が始まる。
琢磨曰く――数日前に琢磨と同じくラッキークローバーの一員だった影山サエコが現れ、オルフェノクたちの反撃が始まると告げたのだ。
そして琢磨にも協力しろと言って去って行ったのだが、すでに人間としての生き方に溶け込んでしまった琢磨はどうして良いか分からず、タクミに相談に来たのだと言う。
オルフェノクではあるが、土壇場でオルフェノクとして生きることから逃げた男。今も人間の味方か、オルフェノクにもどるかで揺れる、はっきりしない男。
そんな様子に呆れる面々だが――
「返事は決まったかしら、琢磨くん?」
創才児童園の庭へと、先の話題に出ていた影山サエコが現れたのだった。
背後にはスマートブレインのロゴが入れられた戦闘服を纏った多数の男達、そしてスマートレディと――死んだはずのオルフェノクの王、アークオルフェノクが立っていたのだった。
サエコが語るには、「この世界」と「向こうの世界」の融合は、オルフェノクが栄える世界を望んだサエコが「向こうの世界」とコンタクトを取ったことで始まったこと。「この世界」のベルトの技術を与える代わりに、「この世界」にオルフェノクの軍勢を送り、「この世界」もまたオルフェノクが支配する世界へと変えるよう取引したこと。彼らの力を借りてアークオルフェノクを蘇生した――まだ意識は戻らず、本能で動いているようなものだが――こと。そして――
「この世界」で元々オルフェノクの世界が実現した際に計画されていた、次世代モデルライダーベルトを、オーガとサイガの技術を合わせて完成させたことを告げたのだった。
サエコの手には青い携帯電話、スマートレディの手には緑、そしてアークオルフェノクもスマートレディの介助を受けながら、赤い携帯電話を手にする。同様に、サエコがつれていた戦闘員も皆、様々な色の「携帯電話」を手にしていた。
『変身』
スマートブレイン側、全員の声が唱和すると同時に、携帯電話がバックルへと装填される。
サエコは青色のボディに顔の下半分側から髭のように伸びる二本の角を持つライダー、仮面ライダー白(π)龍へ、スマートレディは緑のボディで無個性的ながら、格子のようなマスクをつけたライダー、仮面ライダーシーダ(θ)へ、そしてアークオルフェノクは黒のボディに右目が三種の回転式スコープとなり、左側にだけ角が伸びたライダー、仮面ライダーネオ・アルファ(α)へと変身したのだった。
ジェネレーターである「携帯電話」から全身へエネルギーを行き渡らせるライン――フォトンストリームが無いことを除けば、まったく同じ姿のライダーへと、戦闘員達も姿を変えていく。最も、ボディの色はリーダー格三人とは異なり、様々なバリエーションがある。
「さあ、反撃の始まりよ」
サエコの言葉と同時に、戦いの火蓋が再び切って落とされた。