アーマードコア4 鴉〜No RAVEN No LYNX〜

第五話 弾巖


GAヨーロッパ。
かつてアクアビットと共に企業国家世界の覇権を握ろうと、本土アメリカに弓引いた派生企業。
その跡地は人という主を失い、無残に荒れ果てていた。
深い森林に囲まれた大地に、ぽつんと残されているコンクリートの異物。
円形をした建物の天井部にガラス張りのドームが張られた本部と、その周囲に規則的に並んだ背の低いビル。
ビルやドームのガラス、建物の基礎であるコンクリート、大地を覆うアスファルトもひび割れ、すっかり廃墟の様相を呈しているそこに、建物の巨大さ故、見誤ってしまいそうな巨大な機動兵器が鎮座していた。
「先客……か」
竜馬にまたがった紫紺のAC、その乗り手であるクロウ・ミナモトが呟いた。
彼は今、巡航速度でGAヨーロッパ本部の上空を旋回している。その目が見下ろす先には、目的地をすでに占拠し、銃口をこちらへ向けている敵がいた。
「あれは……ソルディオス? いや、サイズは同じだが形状が違いすぎるね」
義経から送られてくる映像を受け取り、遙か遠方で通信機越しに戦況を見ていたジョンブル・両の独り言を耳にしながら、クロウはその名を冠した機動兵器の記憶を掘り起こす。
「ソルディオス」
全長50Mは越そうかという巨体と、各種砲塔、主砲ソルディオスキャノンを装備した、拠点制圧用4脚MT……いや、すでにMTなどという次元ではない。機動要塞、その巨体、火力はまさに名前どおりの太陽神だ。
かつてアクアビットが仕掛けた企業間戦争において多数投入され、ことごとくあのレイブンとジョシュア・オブライエンというリンクスによって破壊されつくした後、そのコストから以降の生産、投入は断念されたはずだが……
「随従のノーマルとMTが攻撃を開始してきた。応戦する」
クロウはソルディオスと思しき巨体の傍から多数の機動兵器がこちらへ向かって飛び立つのを見て機首を変え、そちらへつっこむ。
「うむ、あれについてはまだ未知数だ。突っ込み過ぎない様にしたまえよ」
「……言われなくてもだ」
クロウは竜馬のブーストをふかし、地上へと向かって急降下していく。その速度に、敵機AC、MT達が急停止をかける。常識外れの超高速で移動する対象に、彼我相対速度が限度を超え、火器管制がターゲットを認識できなくなったのだ。
そして急速後退をかけて少しでも速度差を詰めようとするものの――
「遅……ッすぎるなぁッ!」
急加速によるGに自らも押しつぶされながら、クロウは吼える。
すでに地面すれすれまで降下し、地表と平行に敵機へと向かっていた鋼鉄の騎馬。その前足に見える部分の装甲が開き、六連装の銃身が覗く。
正面には数機のMT。砲身は回転を始め、やがて火を噴き始める。
連続して放たれる轟音、高速移動する竜馬にひるみきっていたMTの一機がその銃撃の的になり、瓦解する。
「退け! 退けェーッ!」
MT隊を率いていたノーマルACのパイロットが通信に怒号を放つ。距離をとるため、一時背を向けてオーバードブーストを使用する。
大きな噴射炎を放ちながら、仲間のMTより速く駆け抜ける。その脇を――
後方のMT達を轢き散らしながら竜馬がさらに素早く駆け抜けた。
「なっ……」
ノーマルのパイロットは絶句しながらも冷静さを失わず急転換をかけて先回された竜馬から逃げようとした。が、その後方から何かが激突する。
転倒したACを起き上がらせながらノーマルのパイロットが確認したのは、圧壊したMTの残骸――どうやら竜馬が轢き飛ばしたMTが弾き飛ばされ、激突してきたらしい。
「く、なんなんだあの……」
罵倒しながらもACを立ち直らせたパイロットは、口を開いたまま、その目をも驚愕に見開くことになる。
空に多数の機雷がばら撒かれていた。
それは、ゆっくりと重力に引かれて隊長たちの頭上へと――
……爆煙と緋色の炎を背に義経は竜馬の首の部分に収納されていた、装甲破砕用大型炸薬刺突兵器――西洋騎士が携える馬上槍の形をしたパイルバンカーを装備する。
「大型には大型を……まあ、大きさが少々足りない気もするがな」
クロウはぼやきながら、機首をソルディオスへと向ける。
ソルディオスもまた機首を義経の方へと向けながら、巨大な体躯のそこかしこに設えられた砲塔の照準を合わせ……
一斉に射撃を開始した。
無数に叩き込まれる機銃、ミサイル、ロケット弾、炸裂弾、散布機雷、浮遊機雷、投擲型爆雷――建物の一部や地面に着弾する度に爆発と土煙が上がり、視覚、熱感知、空気流動、音波探知――あらゆる外感覚器官を遮る。
その中をクロウは竜馬を駆り、激しく左右へブレながら敵弾の一つ一つを回避している――超高速で突進しながら。
鞍の部分がせり上がり、後方へ向けて熱量炸薬……デコイを噴射する。熱誘導式のミサイル群をこれでかわし、機銃の射線を避け、ロケット弾は遠距離からこちらも機銃を掃射して対処する。
それでも相手の物量のわずかも削れてはいない。だが、それほどの隙間を、恐ろしい機動力と加速性で竜馬は抜けていった。接地もなしに高速で加速方向を変えるその機動性、制動性はもはや人間のレベルではない。
――と、ソルディオスのほうも弾幕を展開しながら大きく動きを見せていた。その巨大な四足獣のごときフォルムが、箱でも開くように展開していく。巨大な鋼鉄の塊が横へと広がり、それは移動要塞からただの要塞へと姿を変え……
「あれは……要塞……いや!」
ソルディオスをモニターし続けていた両が叫ぶ。
「移動母艦か!」
両が予測したとおり、展開したソルディオスの内壁はコンテナ状のブロックをいくつも保持しており、無数のシャッターが設置されていた。そのシャッターが規則的な順序で開き、中からカタパルトレーンが延び――
「ソルディオスβ、全機発進せよ!」
ソルディオスのブリッジで戦闘指揮間をつとめる男が号令をかける。
同時に、無数の鉄塊が戦場へと躍り出た。


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