仮面ライダー
最低の男。
それ以外に彼を表現する言葉が見つからなかった。

仮面ライダーウェルミ。
量産型戦闘員の試作型として、開発されたライダーである。
変身機構の確認のためだけに改造されたため、戦闘能力は低く特殊な能力もない。
ただ、死肉にたかるように、弱った相手を痛めつける。
まさに蛆虫(ウェルミ)である。
彼には復讐心がない。
憎悪もない。
改造前は無職、引きこもりの状態で、親のすねをかじる自堕落で無気力な男だった。
長くそんな生活を続けたため、家庭の中で自分にささる視線に耐え切れず、アルバイトを探し始めた。
自分から働く必要もなく、短期間で多くの賃金が稼げる、新薬の検体アルバイトを受けたあたり、彼の性格が見て取れるだろう。
しかし、彼が受けたのは試作型ライダーへの改造実験だった。
その時になって彼は騙されたのだと気づいた。
普通ならば、人生が一変するだろう。
だが、彼は抗うこともなくただ現実を受け入れ、実験体という状況を甘んじて受け入れた。
それはこんな人生も悪くない、と格好つけるヒロイックではなく、人生などどうでもいいというただの無気力である。
毎日、人に言われるがままに実験を受けているだけで、衣食住が満たされるのである。
苦しいときもあり、充実感を感じることもなかったが、人生などこんなものだと斜に構えて過ごしていた。
しかし、生来の無気力ゆえか実験すらも面倒くさがり、その非協力さゆえ満足な実験データを得られぬ研究者たちは彼に失敗作の烙印を押した。
そうして廃棄処分となった時、彼は骸のメンバーと出会うのである。
彼は復讐などどうでもいいことだと考えている。
骸に参加したのも、ただ周囲の雰囲気に流されて、なんとなくうなずいてしまっただけだ。
ただ、何をすることもなく生きながらえて、死にさえしなければいいのだと。
しかし、骸は復讐を目的に集まったチームである。
積極的に攻撃に出て、自分たちの力と無念を示さなければならない。
彼にとっては非常に居心地の悪い場所だった。
彼のやる気のなさはしばしば他のメンバーとの衝突を生み、特に元暴走族のセンチピードとは根本的に反りが合わなかった。
それでも、彼にはここ以外に居場所がない。
やる気はないが、ただ言われるままに戦い続けた。
ある時、彼のミスでアジトの場所がライダー部隊と怪人たちに漏れる事件が起こった。
敵の総攻撃を受け、アジトは仕方なく放棄することになる。
脱出する際にセンチピードから娘を連れて逃げるように頼まれるが、わが身可愛さから彼はそれを黙殺し、彼らを見捨てて誰よりも早く逃げ出した。
センチピードの死は、すべて彼の仕業ともいえる。
事件の後、ふさぎこむ娘に前々からよからぬ思いを抱いていた彼は、積極的にセンチピードの代わりを務めようと接触するが、よこしまな下心を持つ彼の態度は逆に娘を追い詰めた。
なにより、娘は自分たちを見捨てたことをはっきりと覚えていたのである。
やがて娘は精神を病んで死亡するが、彼の行動がその一因となっていたのは誰の目にも明らかだった。
責任を感じた彼は、他のメンバーからの粛清を恐れ、手柄を立てて挽回しようと奔走するがすべてが裏目に陥り、リーダーコクローチの不況を買う始末。
とうとう、彼は骸から追放されてしまった。
その後、すべての戦いが終わり、世界からライダーも怪人もいなくなったころ、彼は路上生活者として、たった一人だけ生き残っていた。
その人生も泥酔者とつまらないいさかいを起こし、ナイフで刺されて面白みもなく終わる。
最低の男。
それ以外に彼を表現する言葉は見つからなかった。


こんなんでどうよ?