SRW 第三話 その名はMARS Bパート


ステルス迷彩は効いてるんだろう? どうして見つかった?」
放射線探知だね。相手も頭が回る。視覚と熱放射を遮断しているなら、ソナーのように放射線を投影すればいい」
出撃準備を整えるスネークの問いかけに、オタコンは冷静に答える。
「追いつかれそうか?」
「ああ、加速ロケットは現在エネルギーチャージ中だ。あと十分は待たないと最高速度は出せない」
「いたちごっこだな。追いつかれては引き離し、引き離しては追いつかれる」
ヘルメットをかぶりながら、通信機の向こうのオタコンと会話を交わす。
「それを断ち切るために、ある程度相手の戦力を削いでおく必要があるんだ。スネーク、できるだけ相手の数を減らしてくれ」
「わかった。模擬弾から本物に入れ替えたからな、この機体も本領が発揮できそうだ」
メタルギア・サイサリスのコックピットに乗り込み、計器類を立ち上げる。
ソリッド・スネーク! サイサリスで出る!」
移動中のシャゴホッドの後部甲板が開き、サイサリスの巨体が躍り出る。
脚部の巨大なバーニアをふかしながら、シャゴホッドに遅れないよう移動しながら、襲い掛かってくる敵機を迎撃する心積もりのようだ。
急速でこちらに接近する戦艦……マハのアルビオンからもMMGが何体も出撃する。
アフランシのザクが率いるMMG部隊に隼人のゲッター1はもとより、火星遺跡研究所から追撃任務を受けてきたBOXリーが8機、さらに雷電の乗るメタルギア・レイまでもがシャゴホッドに迫っていた。
「こちら雷電。二号機の奪還任務への協力、感謝する」
先頭を切るレイから、アフランシと隼人に向けて通信が入る。
「こちらアフランシ。感謝はいらない、こちらも命令を受けただけだ。それより油断するな。昨日のような失態は二度と演じたくはないだろう?」
「フ、言えてるぜ」
「仕方ないだろう。あんな方法、誰が防げたっていうんだ?」
不測の事態に備えるよう口ぞえするアフランシと、それに皮肉っぽくあわせる隼人に、少しすねたような口調で雷電は答える。
「たとえどうしようもなくても、言い訳はしないものだ。泣き言を許せば、軍という組織は成り立たぬ」
「誰も、泣き言なんか……」
「なら、昨日の後悔を捨て、失敗を省みるんだ。そして今日のために役立てればいい。明日に生き残りたいのならな」
「……」
アフランシの説教を、雷電は嫌におとなしく聞いている。
「どうした?」
「いや、さすが遺跡戦争の英雄はいうことが違うなと。軍の偉い奴は、たいてい人の揚げ足を取って、昔のことをねちねちといつまでもしつこくほじくり返すような連中ばかりだと思ってたんだが……」
「軍人とは思えない台詞だぜ?」
アフランシ達の会話に隼人が疑問をさしはさむ。
「俺は、軍人じゃない。外部からの協力者だ」
「民間委託のテストパイロットか? 軍の秘密兵器に?」
「ただの民間企業じゃない。アウターヘブンだ。あんただって似たようなもんじゃないのか」
「ほう……」
雷電のもらした台詞に、アフランシが感心する。
「ビジネス相手は問わず、依頼があれば適任者を送り込む、傭兵派遣組織か。実力は期待できそうだな」
「ああ、奴らの追撃は任せてくれ」
そうこうしているうちに、シャゴホッドとサイサリスは目前にまで迫っている。
「よし、総員攻撃を開始しろ。戦艦は落としてかまわん。だがあの機体の損傷は軽微にとどめろ」
「難しいことを、簡単に言ってくれるぜ」
「できないか、神くん?」
「やってやるともさ!」
一方、目前に迫ったMMGの軍勢に対し、スネークも牽制をかけ始める。
遠距離の相手にコックピット両脇の機関銃を放つ。
さすがに移動しながらでは致命部位に命中させることはできない、だが足を鈍らせることはできたようだ。
「そこだ!」
後部ミサイルモジュールから、誘導弾を発射する。
機体左側面に設置されたレーダーレドームは、相手の位置情報をリアルタイムで正確にミサイルへと伝道する。
発射すれば、ほぼ確実に当てることのできる誘導弾である。
アフランシと隼人、雷電は回避運動を取るが、ミサイルの誘導効率が高すぎてかわしきれない。
アフランシと雷電は機関銃で打ち落とし、隼人はゲッターを三機に分離させて誘導システムを狂わせた。
だが、後続の部下たちはうまく行かない。
大半がミサイルの直撃を受け、BOXリーが二機、撃墜されてしまった。
スネークは機関銃とミサイルの波状攻撃を続ける。
アフランシ達は落とされることはないが、攻撃の数に押され、近づくことも反撃することもできない。
このまま優勢で時間を稼ぎ、ロケットエンジンがチャージできれば逃げ切れると、そう考えていたのだが……
「スネーク、前方に敵機の反応だ!」
「前だと!」
オタコンの悲鳴のような報告に反応して、レーダーで周囲を再捜索する。
「待ってくれ、前方どころじゃない。こちらの進路をふさぐように、包囲する形で待ち伏せされてる! このまま進むと全方位を囲まれるぞ!」
「くっ! どこの部隊だ!」
シャゴホッドは囲まれる前に、機体速度を下げ始めた。
進路を変えて、引き返そうかとも考えたが、アフランシ達が迫ってきている。
そして待ち伏せしていた部隊はこちらの速度低下を感知し、それすらも策のうちなのか、こちらに向かって包囲網を作りながら近づき始めていた。
そしてとうとう肉眼で確認可能なほど接近を許す。
その間もアフランシ達との戦闘は続いている。
口腔部にレーザーブレードを装備したレイが迫り、サイサリスも股間部のレーザブレードでつばぜり合いを演じる。
そこに、銃弾が見舞われた。
シャゴホッドとサイサリスにだけではない。周囲から抜け目なく援護射撃をしていたアフランシ達も新たに現れた部隊からの攻撃を受けた。
だが、それらはどれも命中させることが念頭にない、威嚇射撃だったらしい。
全員が、その攻撃の主へと視線を移す。
すでに、その場の全員が多数のMMGによって包囲されていた。
「こちらは火星治安維持、特捜機動部隊MARSである」
部隊を率いている特徴的なまでに白いMMG――VR-747テムジンtype"a8"
通称ホワイトナイトの名で呼ばれるMARS最強の機体である。
その搭乗者は、MARSを創設したサンクキングダムの前統治者、ミリアルド・ピースクラフトである。
「この火星ではあらゆる組織において私闘行為は禁じられている」
747系列のMMGに重装甲を加えたテムジン747HⅡ。そのパイロットが暗い声で呟く。
「そうそう。という訳で、とっとと武器を放しておうちにかえんな!」
悪魔か死神をモチーフにしたようなMMG、スペシネフ罪のパイロットが明るい調子で言う。
「従わない場合、今度は本気で当てることになる」
重装甲、大火力を誇るHBVライデンの最新型のパイロットが一本調子で警告する。
「今すぐ争いをやめてください。こんなことじゃ何も解決しませんよ」
最も数の多いBOX系列をまとめるリーダー機、ボブ2号のパイロットが悲痛な調子で真摯に訴える。
「……貴様らのその戦いは、本当に正しいのか!」
近接戦に特化したアファームドJ、タイプAのパイロットが熱い口調で叫ぶ。
彼らの登場に慌てたのは、部隊長であるアルビオンの艦長だ。
なにせ元国家元首の率いる軍隊である。
下手に手を出せばどのような政治問題を引き起こすことになるかわからない。
「総員、一時攻撃をやめろ!」
さすがに包囲された状態で戦闘を続ける気には誰もならない。アフランシ達はおとなしく攻撃の手を止め、事態を静観することにした。
「スネークどうする? このままじゃ逃げ切れない」
オタコンがすがりつくように情けない声で助けを求める。
「ああ、投降したところで、俺たちは太陽系連盟軍に引き渡される。聞いた話では、マハという部隊は寛大な扱いはしてくれなさそうだ」
「ああ、生きて帰れそうにない」
「なら、ここでできるだけあがいてみるか?」
「待ってくれ、今……今、何か方法を考えるから」
オタコンが髪の毛をかきむしりながら、空中に指で式を書いて脱出案を思考する。
それをそばで見守っていた少年がいた。
アキトである。
彼は戦闘が始まってからずっと、モニターごしにスネークの戦いを見つめていた。
戦う力が欲しい。
オレにもあんな力があれば、いやあいつよりももっと強い力があれば……
今はただただ、自分の無力が憎かった。
偶然と幸運の積み重ねで、ようやく手に入れた自由がまた失われようとしている。
自分はまた、あの暗黒の世界に返らなければいけないのか?


それは――嫌だ。


絶対に嫌だ。
あんなところに帰るくらいならば、死んだほうがマシだ。
これ以上あの研究所の――あの男のためにしてやることなど、何一つない。
オレは生き残るんだ。
絶対に生き残るんだ!
こんな所で――死んでたまるか!

「アキトくん……?」
オタコンの呼ぶ声が聞こえた。
顔を上げると、彼の顔は光に照らされていた。
何が光っているのか――疑問に思ったがすぐにそれは氷解した。
光っているのは自分だ。
神経化したナノマシンが感情の高ぶりに反応して発光しているのだ。
ただ、光り方が今までの比ではなかった。
「なんだ、これ? オタコン、オレどうなってるんだ?」
「わからない、でもこれは……まさか!」
「オタコン、アキトがどうかしたのか!?」
何かに感づいたかのようなオタコンに、スネークが問いかける。
「やっぱり……ボース粒子が増大してる」
計器にかじりつくように向かったオタコンが、モニターの表示を見て呟く。
「なんだ? シャゴホッドが光り始めたぞ」
アキトの放つ光は、彼の体を伝って艦内全体に広がり、やがてはシャゴホッドの外観をすべて発行させるに至る。
「スネーク! 船に戻るんだ! 飛ばされるぞ!」
「何だ! 何を言ってるオタコン!」
「ボソンジャンプだ!」
オタコンの絶叫にスネークは顔色を変え、慌ててシャゴホッドの後部甲板に飛び乗る。
「おかしな動きはするな」
747HⅡがシャゴホッドに向かって両手の大型バスターライフルを向ける。
「まてまてまてまてまてぇーいぃっ!」
そんな中、シャゴホッドに向かって一体のMMGが突っ込んでいく。
「怪しい光を放ち、平和を乱そうとする悪の反乱組織め! この俺とアファームド・ザ・ゲキガンガーが、せーばいしてくれるッ!」
テンガロンハットをかぶった、個人用カスタムMMG。アファームド・ザ・石畑である。
「石畑軍曹。うかつな動きをするな」
「ちっがーう! バートン、それは仮初の名だと何度言えばわかるんだ!」
見てのとおり性格に問題はあるが、操縦の腕と戦闘のカンだけは人一倍優れた男。
石畑軍曹。その魂の名を……
「ダイゴウジ・ガイ!」
と、言った。
「アキトくん、どこに飛ぶつもりなんだ!?」
「わからない!? オレだって、実験以外のボソンジャンプは初めてで……」
シャゴホッドの内部では、混乱が続いている。
やがて、アキトの放つ光は臨界を超え……
「んん? これはもしかして、ヤバイかぁー?」
接触距離まで接近したガイのアファームドは、シャゴホッドの放つ光に飲み込まれた。
「うわああああああああれえええええええええええ!」
ガイの悲鳴を吸い込むように光は消え、そしてそこには何も残っていない。
「……いったい何をしようとしていたんだ、あの男は」
手を出しあぐねて、傍観しているしかなかった隼人があきれたように呟く。
「しかし、また逃げられてしまったな」
アフランシはあくまで冷静に状況と事実だけを分析する。
「こちらはMARS戦闘隊長、ゼクス・マーキスだ」
ミリアルド――戦場に立つとき、彼はゼクスと名乗る――は通信でアルビオンに連絡を取る。
「先ほどまでの戦闘行為と、消え去った戦艦についての情報が欲しい。貴艦への乗船許可をいただきたい」


 第三話 end