仮面ライダーディケイド 異聞Ended to DECAID

第ニ話 ファインディング・パラダイス 後編


――一晩明けて。
創才児童園の園庭に建てられた仮設キャンプでは、士、夏美、ユウスケ、ファイズの世界のナオヤ、シュウジ、リナ、パラダイスロストの世界のタクミ、マリが顔をうなだれつつも、手に持った携帯電話のTV画像、あるいは段ボール箱の上に乗せられたポータブルテレビの画面を見ていた。
そこに映し出されるのは、パラダイスロストの世界から、ファイズの世界への流入を続けるオルフェノクたちの姿がある。
その数はすでにかつてタクミが相手取った、ライオトルーパー部隊の1万人をはるかに超えて、50万。なおも世界各地に出現と侵略を繰り返し、さらにはファイズの世界のスマートブレイン――アークオルフェノクにはまだ自我が戻らず、影山サエコ率いるオルフェノクが合流し、各国の首脳期間を一斉撃破、勢力を増しながら大軍勢は日本へと向かいつつあった。
大多数の人間に対して少数派のオルフェノク。そしてマイノリティであるがゆえに、表立った事のできないファイズの世界のオルフェノクたちが、ほとんど忘れられるようにして沈静化していたがための平和。それが、互いの数の均衡によって瞬く間に崩されていく。
国家レベルどころではない。世界――惑星レベルでの侵略と戦争。前々から計画を練っていたオルフェノクたちと、唐突に不可解な現実だけを突き付けられたファイズの世界。
戦いは圧倒的すぎた。
「やっぱりだ、やっぱり人間に勝ち目なんてなかったんだ」
「ふざけんじゃねえ!」
ぼそぼそと園庭の隅で膝を抱えて震えている琢磨に、怒鳴りつけるナオヤ。
「ちゅうかよ! なんでこんなことになりやがったんだよ! オルフェノクが人類に勝利した世界とか、ぶっちゃけありえねえだろうが!」
「あっちじゃそれが当たり前だったんだよ! むしろこっちで普通の人間がたくさん生きてたほうが奇跡みたいに見えるぜ!」
ナオヤとタクミ、二人のやりようのない苛立ちがぶつかる。
しばらくにらみ合った二人だが、やがて互いにそっぽを向くと、どこかへ歩いて行ってしまう。
「……わかってやってくれ。あいつも、あんたらの世界のことを悪く言ったわけじゃないんだ。ただ……目の前のことがでかすぎて、どうしたらいいかわからないんだ」
シュウジがタクミを追おうとして踏みとどまったマリの背に声をかける。
――昨晩。
オルフェノクの軍勢を引き連れ、新たなライダーギアを携えて訪れたサエコ達は、タクミ達オルフェノクでありながら人間に組する者たちに降伏勧告と投降を促してきた。
「今までのことは水に流してあげるわ。明日にでもオルフェノクがこの星の生態系の頂点に君臨する。新たな人類としてオルフェノクの歴史が始まっていくの。過去の争いなんて些細なことよ。もう、オルフェノクが勝つことは……確定しているんだから」
パラダイスロストの世界のように――旧種族と新種族の争いがあって、そして旧種族の中からも次々と新種族が生まれていくのであれば、それはただの自然淘汰に過ぎない。なるべくしてなった結果に過ぎないのだ。
「日本は最後に残しておいてあげる。明日の日が沈むまでにこの世界を乗っ取って――明日の晩、また会いましょう。その時に答えを聞かせてもらうわ。琢磨君もね」
そう言い残して、サエコ達は去って行った。
誰一人、その場で戦いに挑もうとする者はいなかった。その場には新型のライダーギアを装着したサエコにスマートレディ、アークオルフェノク、そして数えきれないほどのライダーとオルフェノク。戦力比を数えるのも馬鹿らしいくらいの圧倒的な差。
「……今度ばっかりは、俺たちも生き残ることはできないかもしれない。それはあいつらも同じなんだろう。だけど、あいつらはオルフェノクで、奴等は降伏すればオルフェノクだけは見逃してくれると言っている」
「私たちを、置いて?」
「そんなことができる奴等じゃないよ。まあ、俺たちの世界のタクミだったら、だけど」
「こっちのタクミだって。自分がオルフェノクだってみんなに知られても、それでも諦めたりなんかしなかった」
「そうだな」
黙っているだけだった士がようやく立ち上がり、隅っこの琢磨を蹴っ飛ばす。
「命ある限り戦う――それができる奴がライダーだって俺に説教した男もいた。そうしなきゃ、自分の価値を示せない時だってある。そうしなきゃ、残せないものだってある。相手の強さに、組織の巨大さに怖気づいたなんて言っちまったら、一番最初の大先輩に怒鳴られちまうぜ?」
ショッカーによって改造人間にされ、たった一人で戦いを始めた最初の「仮面ライダー」。誰にも理解されないまま、ただ悪と戦うためだけに、一人で組織に戦いを挑んだ男。
「それに、こっちは”救世主”ファイズが二人いるんだ。何とかなるんじゃないか?」
マリに向けて皮肉げにも見えるような笑いを向ける士。
「俺もやるぞ! 何もしないままで、この世界の人たちの笑顔を奪われてたまるか!」
「私も、今回ばかりは……」
ユウスケが立ち上がり、夏美もそれに続こうとするが、夏美は士に止められる。
「お前は子供たちを守る役だ。キバーラじゃ、たぶんそれが精いっぱいだろうからな」
それに不満げではあるがうなずく夏美。ユウスケも、こんな戦いに夏美が参加するのは反対した。
戦いに向けての決意を固める士とシュウジ達。そんな様子を、タクミとナオヤは、別々に背中で聞いていた。


やがて日が暮れ、決戦の時は近づく。
スマートブレインから指定された交渉の場所。都内の中心の大交差点。そこへ向かうタクミ、シュウジ、ユウスケの三人。
闇夜を歩く三人の背後から、駆け足で追いかけてくる――琢磨。
振り向いた士は明らかにがっかりした表情だった。
「僕だって、僕だってやるときはやるんです! やらなくちゃいけないときはあるんです!」
そう勢いよく告げる彼の手には、木場の死後に持ち主不在となっていたカイザギアが握られていた。
自分も戦うために士たちの後を追おうと、部屋の奥底にしまわれていたカイザギアを持ち出したリナを止めようとしていたのだが、マリが「あんたオルフェノクなんだから、カイザギアを使っても死なないでしょ」との一言で、見事押し付けられることになったのだ。
自分には無理の一点張りを通そうとした琢磨だったが、「あんた、それじゃあ結局人間にもオルフェノクにも受け入れられないし、あんたはそのどっちでもないのよ」と諭され、もはややけくその境地に達して駆け出してきたのだった。
「……ちゅうかよ、そんなへっぽこが行くんだったらよ、俺も出ねえと全然かっこつかねぇよな」
そして、面倒くさそうに歩いてくるナオヤ。
「もともとは俺たちの世界から来てるやつらもいるんだしな。あんまり無責任なこともできねぇだろ」
決意を固めた様子で現れるタクミ。
「士―-こんなシチュエーション、何度目かわからないけど、もう君の趣味なんじゃないかと思えてきたよ」
ディエンドライバーを片手でもてあそびながら、大樹まで姿を現し――この世界の面々に「お前誰だよ?」という突っ込みを受けていた。
そんなやりとりを繰り返しながらも、とうとう目的地にたどり着く。
都心を埋め尽くさんばかりの、オルフェノクの大軍勢の真っただ中。
その中心に立つ、サエコ、スマートレディ、アークオルフェノク
対峙する男たち6人。
「さあ、答えを聞かせてくれるんでしょう? なんだか余分な人間が多いようだけど、まさか彼らと一緒に私たちと戦おうなんて言うんじゃないでしょうね?」
「そのまさかだぜ、オバサン」
サエコの問いかけに暴言で答える士。
「……へえ、琢磨君まで逆らおうなんていうの?」
「そ! そそ、そうです! もう僕は僕の人生を歩み始めているんです! 今更あなたたちと一緒に人類と戦おうなんて、できるわけがありません!」
カイザフォンを構える琢磨。
「そう……仲間を失ってしまうのは辛いことだけどね」
サエコも白龍フォンを構え、敵味方ライダーたちは各々、ツールを装着する。
「変身!」
100万対6人。
奇跡を祈ることも馬鹿馬鹿しい、絶体絶命の戦いが始まった――


白龍、シーダが先頭となり、オルフェノクの大軍勢が都市を蹂躙しながら大進撃してくる。
ライダーたちも応戦するが、圧倒的なまでの数の差に次第に押され始め、時に膝をつく者も現れ始め、そのたびにまた別のライダーがフォローに入る。生まれた世界は違えど、確かに彼らは一丸となっていた。
しかし、ついにタクミが一人に追い詰められ、その眼前に立つ白龍に刃を突き付けられる。
「さて、これでお終いかしら? 最初から、勝てる見込みなんてなかったのよ。馬鹿な子達」
白龍の握る青色の光線剣がタクミの首筋に食い込んでいく――その寸前に白龍の胸が緑色の光線剣に貫かれていた。
「ようやく油断した背中をみせてくれましたね、サエコさん」
それは、シーダ――パラダイスロストの世界のスマートレディだった。サエコが何か言う前に、白龍の体を貫いた剣は袈裟がけにその肉体を切り裂き……後にはオルフェノクの末路、白い灰だけが残った。
「私たちの世界を崩壊させてまで接触を図ってきたときは困ったものだと思いましたけど〜、でも帝王のベルトを2本とも失ってから強力なライダーシステムの開発が滞っていた私たちにシーダ、白龍、ネオ・アルファの情報と、新たな世界への道を示してくれたことには感謝してま〜す」
唐突なスマートレディのサエコに対する裏切りに、戦場は一度停止していた。呆然としたその場をよそに、シーダは今度はネオ・アルファへと近づいていく。
「でもオルフェノクの王、なんてものを持ち込まれるのも、やっぱり困るんですよ〜。こっちはこっちでしっかりスマートブレインの組織と社会構造があるんですからね。悪いですけど、こっちの世界の制圧ができるまでは利用させてもらいましたが、ほんとはもう、とっくのとうに用済みだったんですよね〜」
そして、シーダは光線剣を振り上げ、ネオ・アルファへと切りかかる。
「さようなら〜異世界の王様。心が眠ったまま、安らかにいっちゃってくださ〜……い?」
スマートレディの声が疑問形で終わったのは、振り下ろしたはずの腕が……そこになかったからだ。いつの間にか、自分の両肩から先が何かに切り落とされている。
「痛いですね〜。え〜ん、え〜ん。ど〜いうことですかね〜」
こうなってしまっても、まるで感情を感じさせないようにしゃべり続けるスマートレディ。だが、シーダの顔は警戒するようにネオ・アルファへと向けられている。なぜなら、棒立ちのままだった彼の片手が突き出されるように前に向けられており、その周囲には白銀の花びらが舞い続けていたからだ。
「3、2、1、ゼロ〜! は〜い、時間切れなので答え合わせで〜す!」
その声はスマートレディのものでありながら、シーダから発せられたものではない。それは、戦場を見渡せるビルの屋上に腰掛け、見た目は楽しそうに足をぶらぶらと振っている”ファイズの世界”のスマートレディだった。
サエコさんはですね〜、実はあなたたちが私たちを信用していないことをみぬいていたんで〜す。そのために、何よりも王の意識の覚醒に全力を注いでいたのでした〜。でも、それだけじゃないんですよ〜?」
スマートレディは指を一本立てて左右に振る。
「かつての王も、本能のままに動いているようなもので、自我らしい自我はありませんでした。でも、私たちは気づいちゃったんです。かつて、最初の王の覚醒を促すために、犠牲になったオルフェノクの皆さんの中に、私たちが王と認められる人格を持つ、ステキな方がいらっしゃるのを。彼の命は王に吸い尽くされてしまいましたが、もしかしたらその意識は王の体の中に残されているんじゃないかって。そして、サエコさんの目論見は見事大成功、彼女の死を目撃するというショックによってついに王はお帰りになられました〜」
ネオ・アルファの変身が解かれ、オルフェノクとしての姿があらわになる。それはアークオルフェノク本来のものではなく、頭頂部や身体のいたるところに”薔薇”の意匠が施されている。
「こっちの世界でも、向こうの世界でも共通している、最高の戦闘力をもったオルフェノク。村上キョウジ様、オルフェノクの王にふさわしい人格として、スマートブレインの新社長に見事返り咲きなさいました〜。ぱちぱちぱち〜」
無感動なスマートレディの拍手にこたえるかのようにオルフェノクの王――アーク・ローズオルフェノクが両手を掲げる。
「上の上のそのまた上、極上の結果です。サエコさん、あなたの行動は私たちの歴史に刻まれ、決して忘れられることはないでしょう」
あたりに白銀の薔薇の花びらが舞い散り、それがシーダの体に触れた瞬間、激しい爆発が起こり、シーダの存在を跡形もなく消し去った。
「やった、ありがとうございます社長。自分が二人いるって意外ときもちわるいもんなんですよ〜」
スマートレディが歓声を上げ、同時にその場にいたオルフェノクの軍勢と士たちに緊張が走る。
「……何をしているのです、あなた達。早くその敵を消し去りなさい」
アーク・ローズオルフェノクの指示に、一部のオルフェノクが従い、タクミ達は再び戦闘態勢を取るのだが、一部のオルフェノクたちは戸惑い、動こうとしない。その大部分はアークオルフェノクの存在など気にもかけていなかった、パラダイスロストの世界のオルフェノクたちだった。
「命令が聞けないのですか? 今や私こそがオルフェノクの王。世界が違えど、オルフェノクであるあなたたちも従うのが道理でしょう?」
だが、それでも彼らはキョウジの命令を聞かず、むしろ敵意を向けてくるものさえもいた。
「愚かな、王の命令に従えないとは」
キョウジは心底呆れたように嘆息をこぼす――
「まあ、いいでしょう。少しは私の力をみせてやったほうが、下の下ほどしか判断力を持たない低級オルフェノクでも、従わざるを得ないでしょう。もちろん、君たちもまとめて片づけてあげますよ」
そう言って、張りつめた様子のタクミ達に視線を向ける。
「無様なもんじゃないか、格付け社長」
そのキョウジにいつも通りの悪態を向けるのは――ディケイド、士だった。
「ふん、旧種族が私を嘲笑おうなどと、身の程を知りなさい」
「笑ってるのはお前だけじゃない、この場にいるお前らさ」
士は一人、アークローズオルフェノクの前に対峙する。
「別の世界から呼び出した仲間と言いながら、その実、利用しあうだけの関係……貴様らには仲間だの、同族だの、同朋だなんて言葉を語る資格はない。だが――」
士は背後のタクミ、ナオヤ、シュウジ、琢磨に海東、ユウスケたちを振り返る。
「こいつらは違う。たとえ、別の世界に生まれても、ともに戦う仲間と認め合い、どんなに巨大な敵にも立ち向かっていける。それは、同じ”夢”を見ているからだ! 野望や欲望にまみれたお前たちには決してできない、人間としてでも、オルフェノクとしてでもない、己自身の信じる者のために戦う姿こそ、何よりも尊いものなんだ!」
その士の言葉に、タクミが、ナオヤが……ライダーたちが震える膝を奮い立たせ、今一度立ち上がる――!
「今にも崩れ落ちそうな姿で――何様のつもりです?」
「通りすがりの仮面ライダー様だ! 覚えておけ!」
士の叫びを皮切りに、ライダーたちがすべての力を開放する。コンプリートフォームへ変身するディケイド、ディエンド、ライジングアルティメットとなるクウガ、そしてタクミはブラスターファイズへ、ナオヤは……
「乾! こいつを使え!」
自分のブラスターギアをタクミへと投げ渡したのだった。
「そいつの力は俺には使いこなすことはできなかった! けどお前なら――!」
「だからって渡されても使えんのかよ!?」
「ためしにやってみたらどうだ?」
士の一言に、ナオヤから渡されたブラスターギアにまたファイズフォンをセットし、ミッションコードを入力。
『Compleeeeeeeeeeeeee-erorr』
途中までうまくいったかと思えば、やはりエラーを起こし、全身に行きわたっていたフォトンブラッドの赤色が消えうせる。
『The system interrupted the protocol demanded because of a serious error』
「見ろ! 壊れちまったじゃねえか! なんかわけわかんねえこと言ってるし!」
「まあ、黙って見てろ」
怒鳴り声をあげるタクミに士が冷静に促す。
『New hardware was found. The system is installing the device. Pleas wait wait wait complet. It reboots a system』
電子音声が続く中、ようやくシステムが再起動し、元のブラスターファイズに戻る。
『Awaiken』
さらにアクセルフォームのように胸部装甲が開かれたかと思うと、全身をめぐるフォトンストリームに再度フォトンブラッドが供給され始め、基本の赤色を通り越し、出力は黄色、銀、青を経て金色に輝き始める。
もう一つのブラスターギアをサブジェネレーターとしてファイズフォンで補いきれない、理論上最高出力を実現し、さらにギア本体に変形を促すことでその出力に耐えうる構造を作り出す。
いわば、ブラスターオーガという形態が実現したのであれば互角となったであろう、追加装備への対応適性がもっとも高いファイズだからこそ可能となったその姿を、デュアルブラスターファイズ
赤と黒の戦士は世界を超越したもう一人の戦士により、真紅と黄金の姿へと生まれ変わる。
タクミが両手に握られたブラスターエッジを振るう、その軌跡が黄金と赤のマーブル模様となって周囲を薙ぎ払い、無数のオルフェノクたちを消滅させていく。
幾人かのオルフェノクはエネルギー波を飛び越し、頭上から襲い掛かるが、キャノンモードに変形したブラスターギアに撃ち落される。出力の向上により、チャージの時間すらも大幅に短縮されているのだ。
だが、それでも数万単位の敵の軍勢に、タクミ一人は荷が勝ちすぎる。
「ぼ、僕だってもっと力があれば……!」
「じゃあ、もっと強くなってもらおうか」
琢磨のつぶやきを拾い上げた海東は、その銃口をカイザへと向ける。
「え? あれ? こっち味方――!?」
「痛みは一瞬だ」
『Final form ride Ka・Ka・Ka・KAIZA!』
ディエンドからファイナルフォームライドの力を受け取ったカイザは、その姿をサイドバッシャー、否、カイザバッシャーへと変えていく。
「これなら!!」
カイザバッシャーはミサイルを無数に放ち、足元のオルフェノクを踏みつけ、蹴り倒し、敢然とオルフェノクの群れへと向かっていく。
「さあ、そっちの二人も行こうか」
そう言ってディケイドとディエンドはナオヤとデルタをそれぞれファイナルフォームライドさせる。
ファイズはブラスターのカノンモードを模したファイズブラスターへ、デルタはデルタギアを模した巨大な拳銃型へ変形したのだが――
「銃といっても大きすぎるね。これはユウスケにパスかな」
「任されるけど、それでいいのかよ!?」
メガントデルタギアから離れ、カイザバッシャーの操縦席に飛び乗っていくディエンドは、クウガの呼びかけを完全に無視した。
赤、銀、黄色、そして金色。
色とりどりのフォトンブラッドの閃光がほとばしる戦場。その中をゆっくりとした足取りでアークローズオルフェノクが歩み、向かい合いながらタクミもまたゆっくりとした足取りで近づいていく。
「あんたとは、結局またこういう形になるんだな」
「それは君の世界の”私”でしょう? 引き分けといっても負傷で首だけになったような男と、私を一緒にしないでいただきたい」
にらみ合いながら、アークローズオルフェノクは茨をイメージさせる剣を手に持ち、そしてタクミも両手にブラスターエッジを構え――激突する。
一太刀の王、二刀流の戦士。
デュアルブラスターファイズの手数に負けないほど、あるいはそれ以上の速度、膂力をもって激しい剣戟を繰り広げるアークローズオルフェノク。対して、押され気味のタクミではあるが、手数の差でわずかな隙を縫って確実にアークローズオルフェノクに手傷を与えていく。
「決着を――」
「――つける!」
タクミとアークローズオルフェノク。互いに最後の一撃と決めた攻撃の溜めに入る。アークローズオルフェノクは白銀の薔薇の花弁を竜巻のように剣に纏わせ、タクミはファイズフォンを操作し、開いていた胸部装甲を閉じると、全身から常時発散されていた赤いフォトンブラッドの色がストリームと同じ――金色へと変化していく。
『Reformaition』
電子音声とともに胸部装甲が再度開かれ、今度は肩を通り越して背中まで達し、翼のように開きつつ金色に輝くフォトンブラッドを光の翼のように一気に噴出した。
駆け出したタクミのスピードがすさまじいのは、背面のフォトンブラッドの噴出に押されてではない。その一挙手一投足が超高速化されている――通常の10倍の速度を可能にするアクセルフォーム。そのシステムに強引に干渉し、効果を引き出したのだ。
アークローズオルフェノクも最初の一撃は防ぐ物の、それは一撃にすべてを込めたものではない。
一発でだめなら10発。10発でだめなら100発。100発でだめなら――無量大数に届くまでの神速の斬撃を打ち込むための技なのだ。
10秒間の間、アークローズオルフェノクの体に無数に刻まれていくΦの文字。その猛攻をアークローズオルフェノクは――耐え抜いた。
「……まだ、まだ私にはオルフェノクの未来を、未来を切り開く使命――が――」
もはや意地だけで立ち続けるアークローズオルフェノクを前に、タクミも複雑な思いでその姿を目に焼き付けているが、その肩をディケイドが叩く。
「最後は――全員でな。ケリをつけてやろう。この亡霊に」
タクミの後ろには、いつの間にかライダーたち全員が立っていた。
カイザ、デルタは再度ファイナルフォームライド形態へと変化し、それぞれディエンド、クウガが砲手を務める。ナオヤもファイナルフォームライドしてディケイドが構え、そしてタクミはブラスターギアをカノンモードに変えると
、全員が照準を崩れ落ちかけるアークローズオルフェノクへと合わせる。
「あんたの夢を理解することはできない。でも、オルフェノクと人が自由に夢を見られる世界を作っていく。それが、俺たちの”夢”なんだ!」
トリガーを引いた瞬間、この日最大の輝きが、アークローズオルフェノクの姿を微塵も残さずかき消したのだった。