仮面ライダーディケイド 異聞Ended to DECAID

第一話 破壊した世界
Chapter1 運命のGate 問いかけている Left or Right君はどこを目指す


9つの世界に9人のライダーが生まれ、そして物語をつむいだ。
しかし、世界は9つだけではない。
9人のライダーが生まれなかった。あるいは途中で倒れてしまった世界。
9人のライダーとはかかわりのない世界。あるいはそれぞれのライダーにとってのネガの世界。
無数に広がるパラレルワールドを旅しながら、自分の居場所を捜し求めていた青年、門矢士。
またの名を、仮面ライダーディケイド
光写真館の栄次郎、夏美、クウガの世界のライダー、小野寺ユウスケ。そして同じくパラレルワールドを旅する海東大樹と共に世界を巡り、己を中心とした全世界の消滅という危機を回避した彼は、旅こそが自分の居場所、旅を続けることこそが自分の存在意義と認め、運命を受け入れた。
一つの物語に決着をつけた彼らは、再び旅に出る。


――その先に、暗黒が待ち受けているとも、知らずに。



光写真館。
あらゆる世界へと移動し、あらゆる世界をつなぐ橋の役割を持たされた、ディケイドの「家」
世界移動を終えた彼らが、新たな世界を巡るための出発点でもあり、旅の宿でもあり、そして次の世界へ向かうためのゴールでもある。
アベルを鳴らしながら、ふてぶてしい表情をした長身の青年が現れた。少し長めの薄茶の髪は逆立ち、肩口から袖を破った革ジャンだけを地肌の上に身につけ、ズボンも所々が裂けたダメージジーンズとなっている。衣服のあちこちにはシルバーの装飾が施され鎧のようにも見える。
「……おい、この格好はなんだ?」
過剰なまでにワイルドな出で立ちに、来ている本人すら驚愕している。
門矢士……世界を旅する仮面ライダー、ディケイド。
彼の服装は、その世界を象徴するかのように、本人も意識しないうちに世界移動の度に変わっていく。
「士ぁ! それ、すっげえかっこいいじゃん! 荒野の一匹狼って感じだぜ!」
士の後を追って写真館から出てきたのは、癖のついた黒髪に、人懐っこい笑顔を浮かべ、若者らしいパーカーとジーンズといった軽い服装の青年。しかし、運命を超絶するすさまじいパワーを秘めた仮面ライダークウガへと変身する小野寺ユウスケだった。
「地肌に革ジャンとか、なんていうかこう、男の色気全開っていうか」
「やめろ気持ち悪い……だが、どんな格好でも全てを魅了する、この俺の魔力の仕業か」
「士君のほうが気持ち悪いですよ、それ」
ユウスケに続いて、ニット帽をかぶったストレートの黒髪がまぶしい、オレンジ色のジャンパーにショートジーンズといった動きやすそうな服装の少女が写真館から出てくる。
「夏美にはわからないか、服装からにじみ出る、野生の香りが」
「だから気持ち悪いですって……ちょっと、近寄らないで下さいよ」
夏美はあからさまに嫌そうな顔で近づいてきた士を押し返した。それを士は気にした風もなく、改めて玄関の石段を降りていく。
「それにしても……」
「ひどいな、街がボロボロだ」
周りの光景を見渡した士とユウスケが呟いた。街並みの中ではあるが、まるで戦争でも起こったように、道路にはガレキが積み重なり、家々には破壊の跡が刻まれている。遠くに見える高層ビルは、途中で折れてしまっているものも少なくなかった。
「この世界は一体なんなんでしょうか。まるでもう……」
壊れてしまっているかのような、という一言を夏美は飲み込んだ。かつてはディケイドの破壊者としての運命を知りながら、そばにいる者として恐れていた世界の破壊。全ての世界の破壊が回避された今となっても、その言葉には若干の恐れが残っているようだ。
「だが、まだ人間が生きている」
士の言うとおり、街並みには人々の姿があった。しかし、破壊された町と同じようにその格好はみすぼらしく、ぼろきれを纏っている者も多い。
「わからないなら聞いてみればいい。そうだろ?」
「お、待てよ士」
士が先頭を切って人々のいるほうへ向かっていく。その後を足早にユウスケと夏美は追いかけていくのだった。


「おい、ちょっといいか」
何気なく、士は近くを歩いていた人間に話しかけた。呼び止められたことで、無気力にただ歩いていた町人が士の方を振り返る。
その目は、一瞬にして驚愕に見開かれ、口からは声にならない悲鳴の呻きが少しずつ漏れ出してきた。
「なんだ? 俺の顔がどうかしたか?」
目をあわせた途端に恐怖を表され、士も逆に戸惑ってしまう。思わず自分の手で顔を触って確認してしまうほどだ。
「ぁっ、わ、っわわわ」
「どうしたっていうんだ、この人」
怯え、戸惑い、慌て始めた町人に、士の後についていたユウスケと夏美は顔を見合わせる。その疑問は町人の叫び声で氷解した。
「ワームだぁあ!!」
叫び声を上げると同時に、士に背を向けて脱兎の如く逃げる町人。周囲で同じ様に無気力に下を向いて歩き続けていたほかの町人たちも、叫び声に反応して士たちを見て、口々に悲鳴を上げて逃げ始めた。
「おい、どういうことだこれは?」
「いや、わかんねえし。ワームってあれ、カブトの世界の怪物だったよな?」
「そうです、人間に擬態する能力で、完全に一人の人間をコピーする……士くんもワームに真似されてましたよね」
「ああ、そんなこともあったな」
「まあ、昔のことだが」
気のない返事で士と「士」が答える。
「……っておい!」
ユウスケが士を振り返ると、門矢士が二人いた。
「まったく……また俺様をコピーするとは、人気者はつらいな」
「そんなこと言ってる場合ですか!? ワームですよワーム!」
いつのまに近づいてきたのか、かつてと同じように門矢士の姿に擬態したワームと思しき「士」がそこにいた。
「ふん、どうせすぐに正体なんざバレる。それより、あいつらはこいつが増える前に、俺のことをワームと呼んでいたぞ。それはどういうことだ?」
士が「士」へ向き直りながら、鋭い眼光で睨みつけ、詰問する。それに「士」は薄ら笑いで答え、背後の景観を振り返る。
ガレキの街並みのそこかしこから、人影が現れる。格好は様々だったが、その顔は全て「門矢士」のものだった。
「士くんのワーム! ……が、こんなにたくさん!」
「おいおい、いったいどうなってんだよ!」
困惑する夏美とユウスケ、そして士も不快そうな顔でワームたちを見渡した。
「いくら人気者って言っても限度があるぜ。こいつは悪趣味だ」
「その通りだ」
その時、建物の影からようやく「門矢士」以外の格好をした人間が現れた。
ダメージや砂埃ですすけてはいるが、ダークグレーのスーツにワイシャツ、青のネクタイと、以外にもフォーマルないでたちの青年。
「……お前は」
「『ひさしぶり』だな、門矢士……ディケイド」
「……水面、アラタか」
ゆったりとした足取りで士に歩み寄ってくる青年。士にアラタと呼ばれた青年はポケットに右手を突っ込み、物々しい形相で士を睨みつけている。
「知り合いなのか?士?」
アラタと士の顔を見比べつつも、アラタの発するただならぬ雰囲気にユウスケは緊張する。
「まあな。昔……かつての記憶を失う前の俺が旅していた……カブトの世界のライダーの一人だ」
「そう、ここはディケイドが通り過ぎて行った世界。そしてここは」
「俺が破壊した、世界か」
士の呟きに、夏美とユウスケは息を呑む。
「そうだ。だからワームたちはああなった。隣人に成りすますよりも、この世界を破壊したディケイド、お前ただ一人に化けたほうが、人間を恐怖と絶望に追い詰めやすいとにらんでな」
そこまで告げてアラタは士の目の前に立ち止まった。士は何も言わず、アラタの目を見返している。
「ディケイド……なぜ戻ってきた?」
ポケットにつきこまれていた右手が飛び出し、そこに反応するようにタキオン粒子によるジョウントゲートを次元転移して、一個の鉄塊が出現する。
青色を基調としたクワガタムシの形をした機械――それはタキオン粒子を発振するジェネレイターであり、ライダーへの変身と兵器管制を行う基幹システム、ガタックゼクター!
中空を高速で飛びながらガタックゼクターは周囲の「士」ワームに攻撃を仕掛け、幾何学模様を描いて飛びながら開かれたアラタの手に収まる。
「変身!」
アラタが腰のバックルにガタックゼクターを装着し、マスクドライダーシステムが発動、ジョウントされた八角形のヒヒイロカネ装甲がアラタの体を包み、重装甲の戦士が現れる。
「士くん!」
夏美の警告の叫びに応じて、士も自分の変身ベルト――ディケイドライバーを手に構える。
ガタックバルカン!」
それよりも先にガタックは戦いの口火を切る。超高熱の火急を連続発射するガタック両肩のニ連装方が士を襲ったが……それはワームの擬態した「士」だった。
一人目、二人目、三人目と次々とワームを蹴散らしていくガタック。もはや士のことなど見えていないようだった。
「どういうつもりだ?」
襲ってくると見せて、アラタ――ガタックは士を標的とはしていなかった。破壊された世界の住人。破壊した張本人。怨みはあるものと、士もそこにいる誰もが感じていた。
「……たしかにお前のことを怨んでいる。ぶちのめしてやりたい気持ちはあるさ。でも、それどころじゃないんだよ」
近くにいた「士」ワームをあらかた打ち抜いたアラタが呟く。
「お前が”カブト”を破壊したせいで、人類は滅亡寸前だ。今は一匹でも多くのワームを駆逐するほうが先決なんだよ」
アラタはガタックゼクターの角に手をかける。
「キャストオフ」 『Cast Off!!』
ゼクターの電子音声と同時にガタックの重厚な装甲がはがれ、吹き飛ぶ。
装甲を脱いで現れたのは、夏空の如く蒼いスーツを纏った細身の形態だった。重装甲を捨てて、圧倒的な攻撃力を身につけたライダーフォーム――しかしその一番の特徴は……
クロックアップ」 『Clock Up!!』
電子音声とともにガタックの姿が掻き消える。タキオン粒子の操作により、自分自身の時間軸をずらして超高速の世界へと突入したのだ。
「士」ワームたちも昆虫のようなグロテスクな本性を表し、クロックアップの世界へと突入する。
「え、ちょっと、何が起こってるんですか!?」
「ぜ、全員消えたぞ!」
戸惑った様子で夏美とユウスケが辺りを見回すが、士だけがさめた目線で背後を見やる。
『Clock Over』
ガタックゼクターの電子音声が聞こえ、その先には倒れたワームたち。そして二本の曲刀を携え、ガタックだけが立っていた。
「……この世界は、人間が生き残っていくだけで必死だ。それもこれも、カブト――日向ソウジをお前が破壊したからだ」
振り向きざま、ガタックは士に曲刀を突きつける。
「答えろ……今更、なぜお前がここにいるんだ。この世界はもう、放っておいても滅びていくんだぞ」
「……さあな。旅はきまぐれ、だ。こんな世界に立ち寄ることもある」
士はただ目を伏せ、冗談のように口にした。
「お前……!!」
「待った待った待った! ちょっと待ってくれよ!」
頭に血が上り、曲刀を振り上げそうになったアラタの前に、ユウスケが割って入る。
「もう、士は昔の士とは違うんだよ。確かに以前は大ショッカーの首領だったり、ライダー全員を破壊したり、ひどいこともしたけどどさ、今はもうそんな必要もないし……」
「必要? 俺たちの世界は、こいつに破壊されるべきだったっていうのか?」
仲裁のつもりがアラタの怒りに火を注ぐ様子を見て、夏美は顔をしかめ、士は顔を背けた。
「そ、そ、そうじゃなくてさ、再生と創造のために士は世界を破壊してまわってたんだ。破壊されたはずの世界が、再生されずに残っているって事は、その……そう! 今度は士がこの世界を救いに来たんじゃないのか!?」
冷や汗を流しながら、その場の思い付きで話すユウスケ……しかし、
「……かもな」
その言葉に士は小さく、だが確実に同意した。
「それこそふざけるな。お前はこの世界を破壊した張本人なんだぞ」
「だからこそ、自分のやったことは自分で責任を取る。ちがうか?」
「そういう問題か。いまは俺一人だからいいが、名綱さんに見つかったらそれこそ……」
「俺の名前を呼んだか……兄弟。それとも笑ったのか?」
新たな人物の声に全員が声の主をふりかえる。建物の影から現れたその男は、今の士と同じように、地肌の上にダメージを負った革ジャンを鎖で体にまきつけたような服装の男がいた。
「名綱……ソウか?」
士の覚えていた、この世界のザビーの資格者。だが、その姿はあまりにボロボロで、傷だらけで、表情は凄惨を極めていた。
「俺の事を笑ったのはお前らか? なぁ、ワームども」
「残念ながら、ここにいる「俺」はワームじゃない。門矢つか――」
「馬鹿! 黙って……」
士の名乗りを邪魔するようにガタックが士の口をふさぐ。しかし、ソウはその言葉を聞き逃していなかった。
「お前……ディケイドか?」
「そうだ! こいつはワームじゃない、正真正銘の門矢士だ!」
ユウスケがソウに力説しながら近づいていく。
「確かに士は前にこの世界を破壊したのかも知れないけど、今度はこの世界を」
「おいよせ、近づくな!」
アラタの静止もむなしく、ソウの目の前まで近づいたユウスケは殴り飛ばされた。
「いってぇ、何しやが、あ! いた!」
転んだユウスケを踏みつけながら、ソウは士へと近づいていく。目の下には隈を作り、頬はこけ、まるで幽鬼のような表情のソウが近づいてくるのを見ながら、夏美は不安げな表情でつばを飲み込んだ。
「士……お前、本当に門矢士なのか?」
「ああ、そのつもりだが?」
手に持ったままだったディケイドライバーを見せながら、ソウの問いかけに答える士。その顔をまじまじと見つめ、ディケイドライバーと見比べた後、ソウは――にっこりと笑った。まるでそれまでの幽鬼のような表情が嘘のように。
それは澄み渡った空のように、素直で安らかな笑顔だった。そんな表情に、地面に転んでいたユウスケと夏美は顔を見合わせて安堵のため息をつく。
「ようやくお前に会えたな……待ちきれなかったよ」
「そうか? こっちは待ってなんていなかったが」
「そう言うなよ、俺はお前に地獄へ落としてくれた。お前も、そこへ連れて行ってやるよ」
ユウスケたちがソウをふりかえった時には、すでにその笑顔は狂気に染まっていた。どんなに懸命に笑顔を作ろうとしても、その目だけは、抑えきれない憤怒と怨讐と憎悪が煮えたぎっていた。
「名綱さん!」
ガタックが止めに入ろうとするが、地面から何かが飛び跳ねて、ガタックの胸板を蹴り飛ばす。
それは、バッタ型をした手のひら大の機械だった。拳と足、二つの究極を持つ二面性を体現したライダーへ変身するためのホッパーゼクター!
「変身」
手元に飛んできたホッパーゼクターを受け止め、ベルトに装着するソウ。
その姿が碧色をしたヒヒイロカネのスーツを身にまとった赤い目のライダー、仮面ライダーキックホッパードへと変身する。
「ディケイドォォォォォォ!」
いきなり士へ殴りかかるソウ。士はそれを身を引きながらかわすと、ディケイドライバーを腰に装着する。
「こっちの準備がまだだろうが。そう焦るなよ」
その手にはカードが一枚握られている。クラインの壺から無限に供給される多次元のエネルギーが凝縮されたそのカードを、士はディケイドライバーに挿入した。
『Kamen Ride』
認識の電子音声を待って、バックルを回し、カードに封じられたエネルギーを発動する!!
「変身」 『De・De・De・Decaid!』
エネルギーの奔流がカード型の異次元へのゲートとなり、それが階層を作るように門矢士に重なっていく。異次元から転送されてきたスーツを纏い、その頭部には異次元を渡るものの証しである7本のカードパスが収まっていく。
3原色の一つであるマゼンタを基調とする仮面ライダー、世界の破壊者、ディケイド!!
「懐かしい、そしておぞましいな、その姿ァ!」
「ふん、まあ俺は世界の破壊者だからな。畏怖されるのも一つの定めさ」
むき出しの憎悪をぶつけてくるホッパードに、とぼけたような軽口を返すディケイド。
「お前を俺と同じ地獄に落とすため、俺は……俺は、俺はァッ!!」
「地獄ならもう見てきたさ」
そういって、ディケイドは夏美へ視線を向けた。夏美は口を固く結んだまま、ただ成り行きを見守っている。
「ディケイドォォォ!」
踏み込みざま、右の足を振り上げてのまわし蹴りを放つホッパード。その蹴りを腕で受けつつ、ベルトの脇に装着されている電子辞書型のカードホルダー兼、携行兵器ライドブッカーを開き、カードを一枚抜いてディケイドライバーに装填する。
『Atack Ride Blast!』
「とりあえず頭を冷やせ」
ホッパードの足を受け止めたまま、銃型に変形したライドブッカーを突きつけ引き金を引く。光子の弾丸が放たれて、ホッパードの胸板を撃ち抜いていく。しかし、ホッパードは怯んだ様子もなく、けりこんだ足にさらに力を込めた。
「ウォオオオオオオオオオオ!」
地に着いたもう片方の足で飛び上がり、受け止められた方の足を軸にして体を回転させてディケイドの背面に回ると、そのまま飛んだ方の左足で後頭部に蹴りを入れる。
「ぐぁッ! 」
倒れたディケイドの背中にアンカージャッキの装着された足で着地する。そのままホッパードは腰のゼクターホーンに手をかけ、足のジャッキにエネルギーを送り込む。
「ライダージャンプ」『Rider Jump!』
ゼクターの電子音声が冷徹に木霊すると同時にディケイドの背中にジャッキの杭が打ち込まれる。
「がはッ!」
その反動を使ってのジャンプこそが、この技の本領。そしてそこからゼクターホーンを戻して技を発動させる。
「ライダー……キック!」『Rider Kick!!』
アンカージャッキを装着した足にゼクターから過剰なまでのエネルギーが供給されていく。このままでは、地に伏したディケイドの背をホッパードのキックが貫く。
「だから待ってくれって、言ってるだろうが!」
転んだまま成り行きを見守っていたユウスケが苛立った声と共に立ち上がり、腰に手を当てて自身と一体化している戦士のベルトを呼び起こす。
「変身!」
人類を狩りの対象とみなす上位生物グロンギと戦うため、古代人類の戦士に与えられた力を持って、現代に甦ったグロンギと戦う護人、そして今はディケイドの盟友、仮面ライダークウガ
変身するとクウガはディケイドを狙って落下してくるホッパードに飛びつき、ディケイドへのキックを阻止した。
「邪魔をするなッ、俺はあいつを――ディケイドを殺すためだけに!」
「だからそんなことをしてる場合じゃないでしょう、名綱さん!」
クウガを押しのけて立ち上がったホッパードを、ガタックが後ろから羽交い絞めにする。
「離せ水面! 離せ! 離せエェ!!」
「くそッ、ワームは無限に増える! 人類は減っていく! まともに戦えるライダーは少ないって時なのに、名綱さんはこの始末だ! ディケイド、どう責任を取るって言うんだお前は!」
夏美の手を借りて、立ち上がるディケイド。ガタックの問いかけには黙して、ただ底のない憎悪を喚き続けるホッパードだけを見つめている。
「……他のライダー達はどうなっている?」
「何?」
「名綱ソウが破壊された世界でどう変わったのかはわかった。だが、他のライダー達は? 同じように『壊れて』しまったのか?」
その言葉に、アラタは言葉を詰まらせた。一度は視線をそらしたが、決心したようにディケイドを見ると重い口を開く。
「……むしろ、あいつらの方がお前の残した罪そのものだ」
「どういうことだ?」
「それは……」
言いかけて、アラタは何かの気配を感じたのか、周囲に目を向ける。
建物の影、道路を走って黒いスーツに蟻を模したヘルメットをかぶった戦闘員。ゼクトルーパーたちが武器を手に周囲を取り囲み始めていた。
ZECTは健在のようだな」
ZECT……それはカブトの世界でワームに対抗するためのマスクドライダーシステムを開発した秘密組織。警察機構の上位にあり、時には政府権限をも越えて戦う者達である。
「そう、貴様のおかげでな」
やたらと上機嫌な声でゼクトルーパーの間をぬって現れたのは、一振りの直刀を携えた紫色のライダー。蠍の尾を模した頭飾りを持つ、仮面ライダーサソード、ライダーフォーム。
「くそっ、もうZECTが動いたのか!」
暴れるホッパードを離し、ガタックが毒づく。
「どういうことだ? ZECTはお前らの味方なんじゃなかったのか?」
この世界では全てのライダーがZECTの基に戦っていたはずだと、ディケイドは思い出していた。
「裏切ったんだよ、その二人は。ZECTの崇高なる使命を忘れてね」
手に持った直刀をためつすがめつ、サソードはディケイドに言い聞かせる。
「崇高なる使命だと? そういうものほど、ろくなもんじゃない気がするがな」
「その通りだ! ツルギ、お前達のやっていることは間違ってる!」
「まだ親友面か? 水面、ワームを倒してこそのライダー、ワームを倒すためのライダーなんだ。一刻も早くこの世界からワームどもを駆逐するために、今は”力”が必要なんだよ」
そういったサソードの手には、銀色に輝く手のひら大の機械。それはライダーのクロックアップシステムを数十倍まで高める、ハイパーゼクターと呼ばれる超兵器だった。
「さあ、ディケイド。見ていくと良い。お前の残した破壊の遺産を」
サソードがベルトの右脇にハイパーゼクターを装着し、ゼクターホーンを曲げてシステムを起動する。
「ハイパー……プットオン!」『Hyper Put on!』
電子音声が鳴り響くと同時に、サソードの両肩の装甲が膨れ上がる。足を覆っていたプロテクターも肥大化し、長く伸びた後で十肢に別れて多脚を構成する。手に握られていたサソードキャリバーは腰の後ろから伸びた尾のような蝕腕に吸収され、さながら蠍の尾のような形状に変化した。
両腕を鋏のような武器を覆い、サソードは巨大な鋼鉄の”蠍”へと変化していた。
「な、なんだこりゃあ!!」
「これが、俺のハイパーフォームだ!」
サソードは吼えると同時に、腕の鋏で目の前にいたクウガをなぎ払う! 腕の鋏を開くと追い討ちとばかりに光子の弾丸が放たれていった。
「おい、あれは一体なんだ!」
「あれが、改造されたハイパーゼクターの力だ。ライダーをより巨大で、より大きな破壊力を持った兵器に変える、最強の増加装甲システム!」
ディケイドの叫びにガタックが答える。
「お前がファイナルフォームライドしたカブトを使って引き起こした破壊……そこにヒントを得たZECTが作り出した、ライダーを大量破壊兵器に変える悪魔の力だ!!」
そう叫んだと同時にサソードの光子弾に撃たれ、吹き飛ばされるガタック
「アラタ!」
「街が!」
ガタックを負うディケイドと夏美。サソードの放つ光子の弾丸はボロボロの街並みをさらに鞭打ち、建物の跡地を更地へと変えていく。ワームの出現に隠れていた人々も、急いで建物から逃げ惑うが、光子弾やガレキに巻き込まれ――死んでゆく。
「しっかりしろ、アラタ!」
ガタックを助け起こすディケイド、だがその手を振り払い、弱々しくも自力で立ち上がる。
「世界を破壊したディケイドにヒントを得た破壊兵器、人々の犠牲などなんとも思わない攻撃を平然と使うライダー、そして誰もその暴走を止められない……」
ガタックがディケイドを睨みつける。
「ディケイド、お前は……なぜ戻ってきたんだ?」



To be Continued