ACFA 天敵への報復者

ORCA Mission 1

草木の陰も見えない、無骨な岩肌をさらす荒地。
その只中にあって命の息吹よりも、刃のような冷たさと死の香りを漂わせる人工湖
広大な湖岸に接するそこかしこに穿たれた楔のような塔――否、砲台が匂わす死の粒子がさらにその気配を強めていた。
衛星軌道砲エーレンベルク。
もともとは企業連の恥部を破棄するため、レイレナードら宇宙開発推進派により鋳造されたものであったが、リンクス戦争によって件のレイレナードを中心とした宇宙開発推進派閥のことごとくが打ち倒され、その管理権限は他の企業連が握ることとなった。
その企業連が永久の安寧を夢見た揺りかごという棺桶、成層圏近くを浮揚し続けるクレイドルにとって衛星軌道の外まで射程を延ばす兵器は脅威でしかない。
そのため、ORCA――マクシミリアン・テルミドールを中心としたオーメルとの密約が交わされるまで厳重に管理されていたのだが、狂獣ストレイドの起こしたカーパルスの惨劇により、ORCA、企業ともに混乱の渦中へ放り込まれ、その管理状況がおざなりとなっていた。
一応書類上はORCAへの譲渡契約が交わされていたため、無差別テロリストと化したリリアナによって占拠されたとき、その責はORCAに押し付けられる羽目になった。
今――リリアナのメンバーの手によって開放されたアルテリア施設からの送電により、衛星軌道砲にコジマ粒子が充填されつつある。


「話はきいとるよ、傭兵」
丸みを帯びた重厚な人型の鉄塊。背には円形の、仏像が背負う後光のようなパーツを装備したネクストAC、月輪。
「企業の経営を背負って戦うか……企業の後押しで戦う有澤とは真逆だな。同じGA系列といえど、苦労しているようだ」
左後ろから追従するようにオーバードブーストをかける重量二脚ACに声をかける初老の戦士、銀翁。
「……駄弁るのは嫌いかな。緊張しているわけではなし、軽口の一つもいかんかね?」
砕けた調子で騙りかける老人だが、濃紫のACからの返答はない。
「まあ、仕事をこなしてくれれば構わんがね。騙して悪いが、なんてのはかなわんよ」
多少声に硬さを交えて騙りかけるが、僚機はマニュピレーターでさっと敬礼のようなジェスチャーで返答を返すだけだった。
銀翁は淡白な仕事仲間に嘆息すると、前方に見えつつある衛星軌道砲のいくつもの砲身に意識を向けた。
「相手はノーマルどもだ。うまく群れさせればこちらのアサルトキャノンで片付ける。巻き込まれてくれるなよ」
そう言うと月輪はオーバードブーストを解除し、通常ブースターで地上を這うように進む。
紫色の重二脚AC、紫烏帽子もまた、通常ブースターで地上に降り立ったのであった。


六基の衛星軌道砲に対し、まずは分散して敵ノーマルの撃退に当たる。
月輪は最も距離の近い一基へ向かい、紫烏帽子は一つ奥に位置している一基へ当たる。
そこには4基の陸戦型ノーマルと、6基の砲撃用車両が配置されていた。
遠距離から近づきつつある紫烏帽子を感知した砲撃車両から上昇型ミサイルが複数発射される。
上空には目を向けず、紫烏帽子はレーダーの光点で位置を把握し、前方へのクイックブーストで弾雨を避ける。
アサルトライフル銃口を向ける陸戦ノーマルに向けて、こちらもライフルを構える。
先に銃火を放ったのは紫烏帽子だった。
分散して陣形を組む相手に対し、重ライフルの弾丸を拡散して連続発射する。
陸戦ノーマルが引き金を引いた瞬間には紫烏帽子から放たれた銃弾が装甲をいくつも穿っていた。
ある程度距離を離した段階で紫烏帽子は接近をやめ、横移動を主体とした回避行動を取る。
ノーマルが使用する弾丸などプライマルアーマーに削り取られ、ネクストの実装甲に有効なダメージを与えることは無いのだが、長期戦ともなれば侮れない。回避しておくに越したことは無いのだ。
紫烏帽子が放った銃弾は、配備されていたノーマルと砲戦車両に命中し、全体的に大きなダメージを与える。陸戦ノーマル一機、砲戦車両2機はまだ無傷のままだが、一瞬の油断すら許されない超高速戦闘で無傷のままで居られるはずがない。
高速で敵勢力を中心とした円軌道を描く紫烏帽子を、FCSでおいきれないまま、続く銃弾によってノーマルと戦車たちが蹂躙されていく。
その背後で、月輪の向かった衛星軌道砲の根元から、また別の衛星軌道砲に向けて無量大数ほどに群れた蛍のごとき、巨大な光が放たれた。
すでに一基目は落ち、三基目へ向けてアサルトキャノンを放ったのだ。
緑色の粒子が舞い飛ぶ光景を背後に、紫烏帽子は最後の戦闘車両にバズーカの砲弾を叩き込んだ。
おおよそ40秒弱の間に、三基の衛星軌道砲が月輪と紫烏帽子の手中に落ちた。
彼らは次の獲物を求めて残る三基の制圧にかかる。
オーバードブーストをかけて先行する紫烏帽子の後を、PAの切れた月輪が追う。
四基目、五基目の周辺には空戦ノーマルが8機。
敵勢を待ち構えながら、迎撃のための編隊を組む。彼らをロックにとらえた紫烏帽子は、まずミサイルで牽制にかかり、編隊が乱れたところを接近し、ライフルで撃ち落していく。
その背後ではPAを形成しなおした月輪が援護砲撃し、火勢を衰えさせることはしない。
やはり、たちまちのうちに空戦ノーマルたちも撃墜され、紫烏帽子たちはただ弾薬を犠牲にしたのみである。
六基目――こちらも陸戦ノーマルが配備されているだけで、もはやリリアナは風前の灯。誰が見てもそんな状況だった。
「湖面に反応……ゆっくり近づいてくるものがおるな」
銀翁からの通信を受けた頃には、紫烏帽子のレーダーもその敵信号を捕らえていた。
「この巨体……アームズフォートか」
さして慌てた様子も無く、銀欧がつぶやく。
超高速と大火力で圧倒的多数を凌駕し、リンクス戦争の折には世界を支える大企業の一角をも崩したネクストAC。
その力を手中にできるのはAMS適正を持つリンクスだけ。そこに危惧を抱いた企業が対抗策として打ち出した、超巨大質量と大火力を多数の凡人によって制御する兵器。
移動要塞、アームズフォート。
その巨大さを生かした大火力と手数の多さは、ネクストにとっても脅威足りうる。
「ギガベースか……二基いるようだが、相手ではないな」
どこかの戦場で鹵獲でもされたのか、企業が保有しているはずのアームズフォートをリリアナが動かしている理由は定かではないが、銀翁と紫烏帽子を脅かすには至らない――
「いや、まずい。やつら衛星軌道砲を狙っている! 押さえておけなければ破壊するか! こわっぱどもが!」
苛立ちを隠さずに銀翁が吼える。
状況を把握してからの二人の行動は早かった。
まず銀翁が湖岸に向かいながら、ギガベースの一機に向かってアサルトキャノンを放つ。
そのわずかな間に紫烏帽子は六基目の衛星軌道砲に駐留していた陸戦ノーマルの掃討にかかる。背負ったグレネードと手に握るバズーカによる広範囲爆撃で、弾薬費をおしまず手早く片付ける。
アサルトキャノンの大爆発に沈みこそしなかったものの、一機目のギガベースは主砲を破壊され、衛星軌道砲に致命的なダメージを与えることは出来なくなった。
しかし、ギガベースはもう一機ある。
そちらもすでに遠距離砲撃の準備に入っており、もはや発射は抑えられない。
湖面と周囲の空気を大きく震わせながら、ギガベースの主砲が放たれた。
ノーマルを掃討し、ギガベースの対応に向かっていた紫烏帽子の頭上を巨大な砲弾が通り過ぎていく。
三連装で放たれる砲弾のうち、一発が衛星軌道砲の根元に着弾した。防衛砲等を備えた外壁を大きく削り、砲身自体も外装がはがれ、内部の電気系統から火花が散る。
「もう一発受ければ、折れるか」
唸りながら銀翁が湖面を進む。ギガベースの甲板に備えられた数えるのも面倒なほどの火砲の雨を受けながら、こちらも全火力をギガベースの躯体に叩き込む。
その後に遅れて、紫烏帽子もグレネードとバズーカの大火力兵器をギガベースの主砲へ向けて打ち続ける。もはやすぐそこまで第二射は迫り、主砲の奥底で砲弾を押し出すための火薬に火が……
「させんよ!」
めずらしく大声を上げて銀翁が叫ぶ。ギガベースの主砲の砲口に身を躍らせ、その奥へ向けてアサルトキャノンを放ち――同時にギガベースの司令室から発射命令が放たれた。
砲口を遡り、発射寸前の砲弾へと着弾するコジマ粒子の塊。
莫大な熱量は砲薬に引火し、内部爆発によってギガベースの主砲が爆ぜ、誘爆に次ぐ誘爆がギガベースの巨体を満たしていく。
そこに紫烏帽子の放ったグレネードが分厚い装甲に穴を穿つ。
風船が割れるように、内部の爆発を留めきれなくなり、開かれた装甲版の穴が大きく広がっていく。
「こっちも忘れずにな」
主砲を折られたものの、小手先の火力を残したもう一機のギガベースへ両手の火力を集中させる銀翁。
放たれた銃弾が次々と銃火器を潰していき、最後は回復したPAを圧縮したアサルトキャノンで――


湖水に沈んでいく二つの巨大な鉄塊を背に、鉄の巨人達は空を見上げていた。
「この無骨な砲台はな、空への道を開く剣よ」
銀翁の誰に聞かせるでもない呟きを、紫烏帽子――神崎重工の一社員は聞いていた。
「わしはな、月を見てみたいのよ。月の大地を、その土を、砂を」
銀翁の独り言は続く。
「小さな頃は宇宙開発も盛んで、今の年になる頃には宇宙旅行なぞ当たり前になると、そう言われておった。いつの間にやらそんな話は下火になって、企業は予算がどうとのいいわけを繰り返すばかり。蓋を開けてみれば奴らめ、自分達の失態を隠そうとしておった」
月輪のカメラアイが紫烏帽子に向けられる。
「いい仕事だった、傭兵。また次も同輩といきたいな」
ORCAのよこした迎えの大型ヘリが上空を旋回している。
ともかくミッションは終えたようだ。
拠点でメールを確認してみよう。

A Mission end

ミッション報酬が支払われました。

リンクス名:神崎重工NX開発部 (担当 :村KAMI)
ネクスト名:紫烏帽子
脚部形状:重量2脚
パラメータ
近:
狙:2
命:5
回:3
装:10

脚部プラス要素
最:
ク:+1
縦:
旋:+1
戦闘スタイル:中距離

上記のリンクスにメモリ15が支払われます。
次回のミッションに備えて、ACをチューニングしてください。