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仮面ライダー骸。
最終回。


骸による秘密組織基地の急襲。
それは彼らにとって思いもよらぬ出来事だった。
なにせ、基地の場所はまだ誰にも知られていないはずだったからだ。
だが、骸側はかなり早い段階で彼らの基地を突き止めていた。
戦力不足ゆえに防衛に努め、怪人たちをたおして組織の戦力を落とし、時期が来るのを待ってから襲撃する予定だったのだ。
しかし、アジトの崩壊、センチピードの死、ウェルミの追放など、こちらも戦力が低下し、骸も崩壊寸前に陥ってしまった。
ゆえに最後の賭けに出た。
残った人員の総力を挙げて、秘密組織の基地を急襲し、鎮圧する。
彼らにできることは、もうこれしかない。
おそらくは敗北必至の作戦に、出ざるを得なかったのである。
このことは骸の行動をマークしていた米軍ライダー部隊にも知れ渡った。
米軍もまたこれを好機として、判明した組織の秘密基地へ総攻撃を開始したのである。
この事実に秘密組織は非常にあせった。
今はまだ骸のごく少数が相手だが、米軍の一万を超えるライダー部隊が着々とこちらへ迫ってきているのである。
流石にここまで大多数による攻撃への対策は取れていなかった。
控えの怪人たちや、失敗作、未完成品、とにかく動かせる兵士を総動員して迎撃に当たらせたがそれでもまだ足りない。
追い詰められた彼らは、研究中だった最強の怪人の完成を急いだ。未完の部分は怪人の死体や、こちら側についたライダーを解体して滅茶苦茶につなぎ合わせた。
不恰好ながらも一応は動かせる段階までこぎつけ、すぐさま目覚めさせようとした時、異変は起きた。
暴走である。
細胞の再生機能や、成長システムが異常をきたし、見るに耐えぬ肉塊と化して周囲のすべてを取り込み始めた。
研究員、怪人、戦闘員、ライダー。
敵味方を問わず取り込んで吸収し、ついには秘密基地とその動力炉まで融合し、爆発的に膨れ上がった。
秘密組織そのものを喰らい尽くし、周囲にあるすべてを取り込む。
理性も知能もなく、ただ最初に与えられた攻撃命令を忠実にこなす破壊神。
最大、最悪、最凶、最終、最強の怪人の誕生である。
彼らはライダー部隊と骸の戦闘を参考に、ライダーと比肩するものはライダーのみであるという結論に至った。
そしてその素体となったのは仮面ライダーキングビートルの死体である。
たとえどんな姿になろうと、それは仮面ライダーだった。

仮面ライダーゴッドビートル。
キングビートルの名にあやかって名づけるならば、その名こそ相応しい。
身体のいたる所から分身である不特定なサイズのライダーを次々と生み出し、ひたすらに破壊と殺戮のみを行う、超巨大な肉の塊。
触手をわななかせ、巨大な腕を振るい、光線を放つ。
炎を吐き出し、空気を凍てつかせ、稲妻を呼ぶ。
神と呼ぶに相応しき力で、骸とライダー部隊を圧倒した。
米軍は総力を挙げて攻撃を開始するが、まったく歯が立たない。
それは骸のメンバーも同じである。
次々と倒され、取り込まれ、人類の敵と化すライダーたち。
大混戦の中、一人だけあの化け物と互角に戦うライダーがいた。
超高速で空を駆け回り、一撃離脱でダメージを与え続ける。
仮面ライダーコクローチである。
懇親の力を込めて、神を破壊する。
しかし、追い詰められた米軍は恐るべき手段に出た。
海上空母に詰まれた3発の核弾頭の使用に踏み切ったのである。
戦場にはまだ幾千もの同胞がいたが、犠牲もやむなしとして本国や日本への許可を得ることもなく、無理やり発射する。
ゴッドビートルに打ち込まれた核は、その体内で爆発した。
一発目はその巨体を揺らすに留まり、二発目で動きを止めた。
ゴッドビートルの内部で核爆発の破壊エネルギーと、その威力すらも自らの力とする吸収速度がせめぎ合っているのだ。
そして三発目の爆発で、忌まわしく名状しがたき肉塊は破裂する。
爆発のエネルギーはゴッドビートルの体内で相殺され、奇跡的に戦場にいたライダーたちは助かったのだ。
そのはずだった。
喝采を上げる彼らを、神々しい陽光にも似た黄金の光が照らす。
それは弾けとんだゴッドビートルの死骸の中から放たれていた。
やがて、その発光源が姿を現す。
薄絹を纏い、天使のような翼と、悪魔のような羽を持つ、ライダー。
ゴッドビートルは核爆発で吹き飛んだのではない。
すべてのエネルギーを吸収した心臓部が放ったエネルギーで打ち破られたのだ。
蛹から成虫が姿を現すように。
卵から雛がかえるように。

神・仮面ライダー
ゴッドビートルのすべての能力をそのままに、サイズは人間大に凝縮して、エネルギーは倍化させた破壊の化身。
それはキングビートルの肉体そのものだった。
人差し指を振り上げた衝撃で大地が揺れる。
呼び出した稲妻が天を裂く。
その身体が身じろぎすれば嵐が生まれ、瞳が放つ熱線は遠くの海を枯らせた。
圧倒的では及ばない、絶望的すら生ぬるい、命、夢、希望、儚きすべてを破壊する邪神。
未曾有の危機に半数以上の兵を失った米軍は戦意を喪失した。
それでも、コクローチは。
彼だけはただ一人、諦めずに立ち向かった。
復讐のためではなく、正義のためですらなく、散っていた友たちのために。
死してなお戦いを義務付けられた、哀れな一人のライダーのために。
翼は千切れ、腕は焼かれ、足をもがれても、彼はすべての力で戦い続けた。
ライダーとしての、人間としての力のすべてを込めて。
最後の瞬間。
成層圏ぎりぎりまで上昇し、降下しながらの重力加速度を加えた最高速度でのキックが、神の胸を貫いた。
全身から血を流し、目からも血の涙を流しながら上げた雄たけびは、慟哭にも似ていた。
活動を停止した神は現れた時と同じように金色の光に包まれ、光の灰となって微塵に砕けて消えた。


神との戦いを終え、満身創痍、瀕死の状態のコクローチを米軍ライダー部隊が取り囲む。
もはや、骸はコクローチただ一人だ。
彼をこの世から抹消すれば、すべては米軍の一人勝ちで終わる。
容赦なく、情けのかけら一つなく、彼らはコクローチに襲い掛かった。
未だ三千以上の兵がいる。
勝利は確実だった。
それでもコクローチは穴だらけの羽を広げ、肉と骨が露出した足で立ち上がり、焼け爛れた腕を構え、最後の最後まで戦い続けた……


すべてが終わった時、この世に怪人も、ライダーも、存在してはいなかった。
相変わらずの日常である。
変わることのない日常である。
ライダーたちの戦いを覚えているものはいない。
戦いの裏で、すべてを敵に回して戦ったライダーを知るものはいない。
ただただ、平穏に暮らすことを願って戦い続けた彼らの功績はどこにもない。
ただ、あるべき平和を、あるがままに享受する人々の笑顔だけが……



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