仮面ライダー骸。
彼の憎悪は誰よりも深かった。
彼の復讐は相手を殺すことでは終わらない。生かしたまま支配し、虐待し、搾取し続けることが彼の望みだった。

仮面ライダーモスクトス。
失った足の代わりに、自由自在に宙を浮遊する羽を手に入れた男。
羽毛が舞うような動きで相手をかく乱し、両腕の強力な針で突き刺してエネルギーを吸収する。
蚊の怪人と融合した骸のメンバーである。
彼の周囲には常に女の影があった。
まとわりつく女。
言い寄る女。
誘う女。
なにより生まれついての女顔が彼にとって最大のコンプレックスだった。
女とは最低の生き物であり、自分は優越種である男なのだ。
家柄もよく、容姿端麗、学業優秀、運動神経抜群、エリート街道を一直線に突き進む彼にとって、何かするたびに黄色い声援をかけ、男たちからの評判を気にする女たちは、さぞかし低俗なものに見えただろう。
だが、挫折知らずで警察機構のキャリアとなり、トップエリートだけが所属することを許されたライダー部隊に選ばれたとき、彼は初めて敗北を喫する。
誰あろう、彼のもっとも嫌いな女の手によってだ。
自分と同期で警視庁に入り、まったく同じタイミングでライダー部隊に選ばれた女。
彼にとって女とは劣った存在である。
自分とまったく同じ条件を有した存在が女であることに耐え切れなかった彼は、一方的に女に勝負を申し込む。
そして敗北するのである。
これが彼のプライドを痛く傷つけた。
何より、女のやけに馴れ馴れしい態度が癇に障った。
彼は事あるごとに女に勝負を持ちかけ、その後は全勝している。
しかし、それは彼に華を持たせようと、相手が意図的に手加減しているからである。
それが解らないほど彼は馬鹿ではない。
彼は勝利するたびに、敗北感を募らせていった。
そして、正規のライダー部隊の仕事をこなしていくうちに、何かと一緒に行動する二人はライダー部隊最強のタッグとして賞賛される。
女はひどく喜んだが、二人一緒に、というあたりが彼にとっては気に食わなかった。
ある時、いつものように二人で怪人を追い詰め、止めというところまで来た時、女は手加減した一撃を放った。
いつものように彼に手柄を譲ろうとしたのである。
それが隙となった。
怪人の断末魔の攻撃が、女を襲う。
彼はそれをかばい、命にかかわる大怪我を負った。
別に女を守りたかったわけではない。
女に負けたまま、死なれて勝ち逃げされるわけにはいかなかったのだ。
結局、彼の命は助かったが半身不随となってしまった。
戦えないライダーは要らない。
彼はライダー部隊から外され、デスクワーク勤務となった。
そして、何の同情か女も彼を追いかけて同じ職場に着いた。
女は今まで以上に馴れ馴れしく、何かと彼の世話を焼いた。
とうとう住居にまで押しかけて、夫婦の真似事まで始めた。
だが、女ごときに養われる生活など、彼にとっては死んでもごめんだった。
彼は自ら進んで実験体に志願した。
もしかしたら改造技術の進歩で、動かない足が元に戻るかもしれない。
もしかしたらより大きな力が手に入るかもしれない。
一縷の望みをかけて、彼は女には知らせずに実験体となったのである。
しかし、現実にそう上手くはいかず、たび重なる実験で肉体も精神もボロボロに擦り切れた。
治るかと期待された足も、動かぬなら不要と切断されてしまった。
自分で歩くこともできず、ただモノとして扱われる毎日。
自分は誰よりも優秀なはずなのに。
あの女よりも。
元正規ライダーとしての利用価値すらなくなった時、彼は骸のメンバーと出会う。
元ライダー部隊の隊長を務めていただけあって、骸となってからも作戦立案や、人事配置などを担当していた。
戦闘能力は低めで、前線に立つことは少なかったが、経験の豊富さから他のメンバーに劣ることはなかった。
何より、相手を殲滅しようとする執念がすさまじかった。
それは自分を切り捨てたライダー部隊への復讐と、どんな状態になろうとも自分は誰よりも優秀なのだと証明しようとする、利己的な感情だったのかもしれない。
そして、骸として活動していくうちに、ライダー部隊に復帰したあの女と対峙する。
こんどこそ決着をつけると意気込む彼。
戦いをあくまで拒否する彼女。
二人の争いは永遠に平行線で、決着はつかずに終わるかに見えた。
アジトを失った後、最終攻勢にでる骸。
最後に残ったコクローチとモスクトスは、たった二人で秘密組織のアジトに乗り込み、同時に襲撃してきたライダー部隊と壮絶な戦いを繰り広げる。
だがコクローチとはぐれ、姿を見せた最後の怪人と万を超えるライダー部隊の前に、彼は途方もない無力感と絶望に打ちひしがれ、すべてを諦める。
そんな彼の前に立ち、守るように戦い続けたのは、敵であるはずのあの女だった。
なぜ、自分を生かそうとするのか。
彼の問いに女は答えた。
好きだからに決まってる。あなたが生きているなら、私は死んでもかまわない。
自分のためですらなく、ただ彼のためだけに戦い続ける彼女。
ようやく、彼は悟った。
女の愛の偉大さに。
そしてついに自分から敗北を認めた。
この女にはかなわないと。
かなうわけがないと。
彼の目には活力が戻り、宙を舞う羽は再び空気を震わせた。
彼は言った。
生き残ったら結婚しよう、と。
彼女は本当に嬉しそうに答えた。
その後の彼らがどうなったかは定かではないが、
車椅子の夫を支える妻を見るたびに、彼らのことを思い出していただければ幸いである。



そろそろ飽きてきましたか?
でもなんだかんだで、もうラスボスまで書いてしまった罠。