SRW 第二話 メタルギア強奪 Aパート

ちょうど早乙女研究所へマハの部隊が到達したころ。
火星遺跡研究所でスネークが目的のメタルギアを見つけていた。
「どうやらこいつのようだな」
MMG格納庫の入り口の前に立ち、覗き窓の向こうに見える巨大な鉄の機械をにらみながらスネークがつぶやく。
「こちらスネーク、目標を確認した」
体内ナノマシンによるバースト通信で、相棒にコールする。
「了解だスネーク。ここまでできるだけ騒ぎも起こさずにやってこれたから、敵兵は君の侵入に気づいてない」
「ああ、絶好のチャンスだ」
「新型のステルス迷彩、調子がいいみたいだね」
「こいつのおかげだけで侵入できたわけじゃないんだがな」
「わかってるさ。君はスニーキングミッションのプロだからね。じゃあ、次はステルス迷彩なしでやってみるかい?」
「オタコン……それとこれとは話が別だ」
「悪い悪い、ジョークだよ」
軽口を叩きあいながらも、スネークは格納庫の内部の様子を慎重に探る。
「さすがに警備兵の数が多いな。正面突破は無理そうだ。他の入り口を探してみる」
「排気ダクトの中は? 通れそうかい?」
「換気口の位置が高すぎる。侵入できてもあんな所から下りたら足の骨が折れるぞ」
「そうか……基地内の地図は渡してあるだろう? それを活用してみてくれ」
「ああ、ありがたく使わせてもらってる」
そう言いながらスネークはナノマシンで網膜に基地内の地図を投影する。
「……少々遠回りになるが、整備員が使う備品倉庫を通り抜ければ目標近くからドックに潜入できるな」
「オーケー、そのルートで行こう。じゃあスネーク、成功を祈ってるよ」
スネークは通信を切り、格納庫の正面入り口をわき目に備品倉庫へ向かって走り出した。

目的の備品倉庫が見えた。
こちらにも入り口に警備兵が立っていたが、幸い一人きりだ。ならば一眠りしてもらって、異常に気づかれる前に格納庫に潜入するとしよう。
そう考えてホルスターから拳銃を引き抜き、足音を殺して警備兵に近づいていった。
拳銃を目の前に構えても、ステルス迷彩を装備したスネークは警備兵に気づかれない。
「動くな」
低い声で威圧すると、警備兵は狐につままれたような顔で周囲を見渡す。
スネークは周囲を警戒しながら、目の前で混乱している警備兵に現実を見せてやるため、ステルス迷彩のスイッチを切った。
「ひっ!」
唐突に目の前に人間が現れた驚きと、さらに銃口を突きつけられた恐怖で警備兵が息を呑む。
「う、撃たないで!」
両手を挙げ、引きつった声で警備兵が哀願する。
「大声を出すな。殺しはしない。だが、しばらく眠っておいてもらおう」
そう言ってスネークは腰の入ったパンチを警備兵の顎にお見舞いする。
警備兵はくぐもったうめき声を上げたが、一撃では気絶しなかったようだ。今度は拳銃の銃把で首筋を打とうと腕を振り上げる。

そこに、誰かが突っ込んできた。

通路の向こうから全力で走ってくる人影は、気づいたときにはすぐそばにやって来ていて、かわそうとした努力もむなしく、スネークに激突する。
「うわっ!」
突然乱入してきた相手はスネークにぶつかると、床に転んでしりもちをついた。
衝突されたスネークは転倒はしなかったものの、警備兵を殴ろうとした手はむなしく宙を切った。
その隙に警備兵は目を光らせ、床に落とした銃を拾い上げてスネークに向かって射撃する。
「侵入者だ!」
警備兵が声を張り上げる。他の警備兵が銃声を聞いたのか、間髪いれずに研究所内にアラートが鳴り響いた。
スネークは舌打ちすると拳銃を構えなおし、警備兵に向かってすばやく銃弾を叩き込む。
頭に一発。正確に打ち込むと、その警備兵は壁にもたれかかって倒れた。
そのまま油断せずに銃口をさっきの乱入者に向ける。しかし、当の乱入者はスネークの方を見ず、手探りで何かを探しながら、床に転んだままだった。
「違う! オレは侵入者じゃない」
あさっての方向を向きながら、乱入してきた男――というより背格好を見れば少年だが――はスネーク以外の何者かに弁明していた。
「撃つな! 撃たないでくれ! 侵入者じゃない」
どうやらこの少年も後ろ暗いところがあるらしかった。
「お前は何者だ!」
銃口を向けたままスネークが問い詰めると、少年はようやくスネークを見た。
いや、スネークの方向を見ただけで、その目はスネークを見つめていない。
「ひ、被検体NO0021……」
きている服は病人が着るようなカソック。胸には顔写真とナンバープレート。どうやらこの研究所で実験に参加している一般人のようだ。
「あいにく俺は警備兵じゃない。別にお前を撃つ必要はないんだが」
「警備兵じゃない? じゃ、あんたはいったい誰なんだ?」
アキトと名乗った少年は、床に転んだままの姿勢でスネークに問い返す。
「答えてる暇はないな。こっちは忙しい。誰かさんのおかげで警備兵に気づかれちまったからな」
「警備兵に気づかれたって……まさかあんた本物の侵入者か!」
「騒ぐなよ、騒いだらお前もそこの警備兵と同じ所に行ってもらう」
「そこに警備兵がいるのか? じゃあどうしてあんた、こんな悠長に喋って……まさか、殺したのか?」
少年の台詞にスネークは不審なものを感じた。少年の視界には、頭を撃ちぬかれた警備兵の姿は見えているはずだ。だがこの少年は警備兵のことに気づかなかった。
「お前……目が見えないのか?」
「……そうだ。おまけに嗅覚も味覚もない」
「それでよくあんな速度で走り回れたな」
「オレはここでずっと育って暮らしてきたんだ。見えなくても体が覚えてる」
「ほう、たいしたもんだ。なら、ほうっておいても自分で帰れるな?」
「いやだ! オレは戻りたくない!」
「駄々をこねるな。こっちはすぐにでも身を隠さなくちゃいけないんだ。戻るのが嫌ならそこでおとなしくしていろ」
「そんなこと言ったって、結局警備兵に見つかって連れ戻されちまうじゃないか」
「仕方ないだろう。それがお前の運命だ」
「馬鹿いうな! そんな運命があってたまるか! 今日だってようやく拘束を抜けてきたのに……」
少年の手足を見ると、確かに縛られていたらしい縄痕が見えた。そこからは薄く血がにじみ、よっぽどきつく拘束されていたことと、脱出するために無茶をしたことがわかる。
「ずいぶん反抗的だな。その調子なら近いうちに研究所から追い出されるさ」
「まさか、あいつらはオレを逃がすわけがない。重要な研究材料で、明らかな人体実験の証拠だからな」
人体実験――元々はまともな施設だとオタコンは言っていたが、どうやら裏にもう一腹抱えていたらしい。
「目も、舌も、鼻も、本当はまともだったんだぜ。なのにあいつら、人の頭ん中勝手にいじくり回して、オレから全部奪っていきやがった!」
「……気の毒な話だな」
そしてよくある話だと、下手な同情心を抱かないようにスネークは心の中で完結させた。
「だが、今の俺には関係ない。悪いが先を急ぐぞ。お前にはもうかまってやれん」
そう言ってスネークは少年に背を向ける。
「待てよ! この研究所に侵入してきたってことは、あんた反乱組織なんだろ?」
「答える必要はない」
「頼む! オレも反乱組織に入れてくれ!」
その言葉にスネークは思わず振り返っていた。
「やつらに、復讐してやりたいんだ! オレをこんなにしたあいつらを、一人残らず殺してやる!」
「威勢がいいな、だがそんな体で戦えるのか?」
「どうでもいいだろ! 俺のこの手でやらなきゃ気がすまないんだ!」
「なら、ここでその機会を待つんだな。反連盟組織に入るより、よっぽどチャンスはある」
そう言って、今度こそスネークは少年の前から立ち去ろうとした。
「待てよ、あんた侵入者なんだろ」
少年の問いかけを無視して、スネークは備品倉庫の扉を開ける。
「オレを人質にすれば、警備兵たちは手を出せないぜ」
スネークは再び少年を振り返っていた。
「たいした自信だが、根拠は?」
「言ったろ、オレはやつらにとっちゃ大切な研究材料だ。何度も脱走して、それでも生かされてるのがその証拠さ。あいつらはオレに死なれちゃ困るんだ」
スネークは頭の中で少年の言った言葉を吟味しながら、少年のそばに近づく。
「俺がお前を殺さないとも限らんぞ」
「それでも、やつらに一泡吹かせることはできるだろ」
「復讐のためなら自分の命を賭けられるか。見上げた根性だ。お前、名前は?」
「アキト。テンカワ・アキトだ」
返答を聞きながら、スネークは少年に肩を貸す。
「よしアキト。立て、今からお前は人質だ」

 To be continued……